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妖精王

Fantasy ★★★★★
Horror
Healing ★★★
Eroticism ★★★★


Key   Word   
ア行 赤枝の騎士団  井冰鹿  ウンディーネ  アキレス  
アリオン  アプサラス  アエオロス  
オキュロエ  ウォーター・ライス 
カ行 クーフーリン  グィン  ケルピー  コカトライス  
  コボルト  ケンタウロス  ケイローン  
クラケーン クリュサオル  グリュンデル
サ行 サラマンダー  シルフィールド  セタ
タ行 チョンチョン  ドュラハーン
ナ行 ノーム  ニュクス
ハ行 ハーピー  ヒポグリフ  ペガサス  ヘリコン  
バスト  ピュグマイオ 
ヒッポテス  フリー
マ行 マブ  メリジェーヌ  モノケロス
ヤ行 ユニコーン 
ラ行 ルシフェ  レタル・カムイ
ワ行

 Story(ようせいおう)

 体が弱く少しわがままな高校生、忍海爵(おしぬみじゃっく)が療養のために北海道の親戚の家(河村家)へやってきて、従兄の風野燐と出会い、すばらしい北海道の風景に溶けこむように、爵は幻想の世界へ足を踏み入れることになる。妖精王の子グィン、その第一の従者クーフーリン、ダーク・エルフの女王クィーン・マブ、その弟、井冰鹿たちの愛憎と確執を軸に、爵とプック(小鹿の妖精)のニンフィディアでの冒険が幕をあける・・・

 幻想世界の住人たちによって現実世界から幻想世界へと導かれる感覚がすばらしい。これは山岸凉子さんの夢のように美しい、あるいは死のように禍々しい絵の力と、キャラクターたちの魅力によるところが大きいだろう。クーフーリンや爵はもとより、マブや井冰鹿、メリジェーヌ、ルシフェたちの暗黒のさだめと哀しさも強く心に残る。また爵の成長物語が読み手にも重なるかもしれない。「ネバー・エンディング・ストーリー」のように、ページを開くといつでも私たちはニンフィディアへと旅立てるのだ。



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クーフーリンク・ホリン) ケルト神話

 ケルト神話に出てくるマイリージャ族時代の英雄。ケルトのコンホヴォル王の妹デヒテラと、光の神ルーフの子。(ルーフの子の生まれ変わりである小さな虫を飲み込んだため、身ごもったといわれる)

 
「妖精王」第一の従者としてのクーフーリンは、人間界では風野燐という地質学士として描かれる。現実世界と幻想世界を行き来するクーフーリンは、勇者の名にふさわしい容貌と力をあわせもつ。

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赤枝の騎士団 ケルト神話

 ケルト神話のマイリージャ族時代、王族に仕えた騎士団。ローマの軍団を手本にし、王に仕え外敵を防いだ。三つの連隊からできており、一隊に300人ほどの戦士がいたという。「赤枝の館」が集会場であったためこの名がついた。フィンを団長とするフィオナ騎士団の時代に、いっそう組織化され、厳しい試験や訓練がなされ、優秀な騎士が集まって栄えた。もっとも有名な騎士が、英雄クーフーリン(ク・ホリン)。
 
 
「妖精王」では、クーフーリンが率いる騎士団として描かれる。グィンの「信頼」を失うと同時に消え去っていたが、「信頼」を取り戻したときに彼らもクーフーリンのもとに帰ってきた。騎士団が角笛を7回ふき終えたときに、クィーン・マブの城塞は崩壊した。

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グィン(グィネヴィア) アーサー王伝説

アーサー王第一の騎士ランスロットと王妃グィネヴィアの恋物語。

 アーサー王、ランスロット、グィネビィアの関係は、妖精王ナッドの子グィン、クーフーリン、クィーン・マブの関係と重なる。

 「アーサー王伝説」

 イギリス王ユーサーとイグレインの間に生まれた子。魔法使いマーリンの元で育てられ成人になったとき、大石に突き刺さり誰も抜くことの出来なかった伝説の剣「エクスカリバー」を抜く。そのことによりイギリス王としての道を歩む事になる。 しかしマーリンの忠告を無視し、グィネヴィアと結ばれたことから彼に悲劇が訪れる。グィネヴィアは白い騎士ランスロットと密会をくり返していたのだ。
 アーサー王が老いた頃、甥であるモードレッドが反乱を起こし、 円卓の騎士たちは次々と亡くなり、王自身も重傷を負う。 そして彼は三人の妖精に連れられアヴァロンへ運び去られたという。 エクスカリバーは湖の妖精の手に受け取られた。
 彼の仲間たちである円卓の騎士たちが、イエス・キリストの聖杯を探すために世界中を旅した伝説も有名である。

 「ここにアーサー王眠る。かつて王でありいつかまた王となる者」
アーサー王の石碑にはこう記されている。

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クィーン・マブ ウェールズ伝承

 「マブ」は英国ウェールズに伝わる「エサースロン」というエルフの女王の名前。エサースロンは一般に「良いお隣さん」と呼ばれ、不運な人間を慰めてくれるという。

 「妖精王」のクィーン・マブは、どちらかというとハグという魔女に近いかもしれない。

 ハグ

 魔女の古代英語。美しい妖精に姿を変え、勇敢な騎士を罠にはめ食べてしまおうとするが見破られ逆に退治されてしまうという話も残っている。エサースロンの女王マブも、このハグも、「夢魔」として扱われている。夢魔にもいろいろあるが、「妖精王」のマブは、サッキュバス(淫魔)に近いかもしれない。サッキュバスは女の夢魔で(男の淫魔はインキュバス)、情欲ゆえに天からおちた堕天使という説もある。眠っている人間の男性と交わって精子を集め、精霊をつくりだすという。

 「妖精王」のマブも「情欲」という魔力を持っていて、彼女と寝たものは、その持てる魔力、妖力すべてを失うという設定である。爵との戦いにむけて、サイクロプス(一つ目の巨人)たちを召集し骨から解き放つシーンがあるが、この魔物たちもマブの「情欲」という魔力によってつくりだされたか、あるいはその魔力によって下僕になりはてたのかもしれない。山岸凉子氏描くクィーン・マブは妖艶で禍々しく美しいが、同時に、グィンとクーフーリンに対しての愛憎と確執ゆえ、憎むことで愛するといった暗黒の運命の哀しさも感じられ、とても魅力的なキャラクターだ。ちなみに、爵との戦いでは「ヒドラ」のような姿で描かれた。

 ヒドラ(ヒドュラ) 

 ギリシャ神話に海蛇として登場するが姿はドラゴンに近く9つの首を持つ。女神エキドナと風の化身テュポーンの子。その性質は日本神話「ヤマタノオロチ」に似ているかもしれない。

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井冰鹿 古事記

 「古事記」中つ巻、「熊野より大和へ」の一節に登場する名前であるが、詳しい説明は特にない。その部分を下に引用してみる。

 「・・・其地より幸行(いで)まししかば、尾のある人、井より出て来。其の井光れリ。『汝(いまし)は誰ぞ』と問わせば、『僕(あ)は国つ神、名は井冰鹿』とまをしき・・・」


 山岸さんは、この一節から想像をふくらませ、あの魅力的な井冰鹿というキャラクターをつくりあげたと思われる。「尾のある人」で、あの肉感的な尾を表現してしまう才能は驚くべきである。

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ケルピー スコットランド伝承
 馬の姿をしている水の精。水馬とも呼ばれる。髪の長い男の姿で現れることもあり、見た目は美しいが、髪に水草がからまっているのですぐに分かるという。首に手綱をつけて捕まえることができれば、思い通りに走らせることができる。一日に千里を走るすばらしい駿馬だが、こき使うと呪われてしまうこともある。

 「妖精王」のケルピーは、髪の長いケンタウロスのような姿で描かれている。金色の髪と漆黒の肌がとても美しい。マブへの「情欲」のために主人であるクーフーリンを裏切ったが、ケンタウロスの好色な性質が反映されているのかもしれない。

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ウンディーネ ヨーロッパ伝承

 水をつかさどる精霊で、湖や泉などに住んでいる。人間と同じ姿をしており、ほとんどの伝承では美しい女性として登場する。ウンディーネは、他の妖精よりも人間と恋におちることが多い。人間と結ばれることによって彼女らは魂を手に入れることができるという。
 
 「妖精王」のウンディーネも、爵を湖にひきずりこもうとしたからやはりホレっぽいのかもしれない。緑色の長い髪をした人魚のような姿で描かれている。

  山岸作品  「ウンディーネ」


  四大精霊

  16世紀の錬金術師パラケルススは、火のサラマンダー、風のシルフ、地のノーム、そして水のウンディーネを 「四大精霊」とさだめている。残りの3つも「妖精王」に登場する。

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サラマンダー ヨーロッパ伝承

 火をつかさどる精霊。トカゲのような姿をしており、手の平に乗るほど小さい。火山の火口や燃える炎、溶岩の中に住んでいる。人間の姿をしているという説もある。

 「妖精王」のサラは、燃えるような赤い髪に色っぽい姿であらわれる。彼女の髪にふれると、とても楽しい気分(?)になるらしい。ダークエルフの女王マブの臣下であるが、爵に好意を寄せ、彼を応援したり、自らの本当の姿を見せたくなかったりと、かわいらしい性格でもある。

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ノーム ヨーロッパ伝承

 地(土)をつかさどる精霊。「地に住む者」という意味もある。老人のような容貌をした小人の一族。おもに地中で生活しているが、手先が器用で知性も高い。鉱物などからすぐれた細工をつくりだすともいわれている。
 「妖精王」に登場するノームも小さな老人の姿で描かれている。財宝をねらわれはしないかと心配するケチなおじいさんという感じだが、爵とプックのために逃げ道(蛇道)を教えてくれる。モノケロスという一つ目のユニコーン(一角獣)と登場した。

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シルフィールド(シルフ) ヨーロッパ伝承

 風をつかさどる精霊。シルフという言葉は、ラテン語の「sylva−森」とギリシャ語の「nymphe−ニンフ」の合成語から生まれたといわれる。木々の梢をならして吹き渡る風のイメージからつけられたのかもしれない。美しい女性の姿をとることが多く、そのためシルフィードと女性形で呼ばれることもある。

 「妖精王」では、美しい姉妹たちの姿で描かれ、末の妹ユーナが海の精メリジェーヌにとらわれたエピソードがある。

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メリジェーヌ(メロウ) アイルランド伝承
 海の精霊。伝説では人間と共存する、温厚な一族とされている。メロウと友人になる人間もいたし、人間と恋におち、結婚することもある。女のメロウはマーメイドのように魚のような尾を持ち、指のあいだに小さな水かきがある。男のメロウは、緑の歯と髪、豚のような目、赤い鼻で醜い容貌とされている。

 メリジェーヌは、長い緑の髪と水かき、そして海蛇の姿で描かれる。海の中では自分を美しく見せることができたので、シルフィールドの末の妹ユーナの心をとりこにすることもできたが、爵によって海から引き上げられるとユーナは彼女の姿におびえる。しかし孤独なメリジェーヌの姿はとても美しく魅力的である。

  メロウの真珠 

 爵は彼女から海の中で長くもぐっていられる「メロウの真珠」をもらったが、伝説では「メロウの帽子」をもらうと長くもぐっていられるという。


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コカトライス(鶏頭蛇尾獣) 伝承

 
トカゲや蛇に似たバジリスクと性質が似ているが、コカトライスは巨大な鶏の怪物のような姿である。にらんだ相手を石に変え、砂漠に住んでいるといったところもバジリスクと共通する。コカトライスは、鶏が産んだ卵をヒキガエルが温めると、誕生する。または、嵐の夜に、雄鶏が産んだ卵が孵化するとコカトリスになるともいう。
 「妖精王」では、コカトライスの一撃でプックが重傷を負うが、爵に不思議な力が目覚め、退治することができた。

 バジリスク

 語源はギリシャ語の「小さな王」からきている。伝承によって異なるがトカゲか蛇のような姿であるとされる。視線によって相手を石に変えてしまう特殊な力を持っているという。

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アキレス(の石像) ギリシャ神話
 ホメロスの長編叙事詩「イリアス」の主人公。ペレウスと女神ティテュスの子であり、母神は彼を川に浸して不死身にしたが、踵だけ水につからなかったので、のちに弱点となる。英雄たるべくケンタウロス族の賢者ケイローンに育てられ、勇猛で足が速くトロイア戦争で活躍する。しかしパリスの放った矢が踵にあたって戦死した。

 「妖精王」では、動くかもしれないと想像すると本当に動いてしまう石像として登場するが、爵に踵の弱点を見破られる。

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ハーピー(ハルピュイア) ギリシャ神話
 顔と胸までが人間の女性で、あとは巨大な鳥の姿をした怪物。女面鳥獣。もとはゼウスが飼っていたといわれるが、アルゴー・ノート(アルゴー探検隊)では非常に野蛮で汚らわしいものとして描写されている。ギリシャ神話では、ハルピュイアという名で登場するが、これは「かすめとる者」「むしりとる者」という意。 いつもお腹を空かせており、食べ物めあてに人間を襲ったり、また腐った肉や屍肉を食らうともいわれている。本来はクレタにおける女神で、つむじ風や竜巻を神の仕業と考えたことから生まれたらしい。
 大地の女神ガイアと不毛の海ポントスが交わって、まずタウマスという怪物が生まれた。このタウマスが、海神オケアノスの娘エレクトラと交わってハルピュイアが生まれたという。これは、神話の最初の部分、天地創造のくだりで書かれている。ハーピーは、虹の神イーリスと姉妹関係にあることになり、誕生した頃のハーピーたちは、風をつかさどる、美しい巻き髪を持つ女性たちであったが、アルゴ・ノートの物語以降、その姿は醜く変えられてしまったようだ。ハーピーのモデルは猛禽類の王者ハゲ鷹ともいわれている。
 「妖精王」に登場するハーピーは、”速きもの”のオキペタ、”嵐”のアエロ、”黒”のセレノという3姉妹。爵が変な臭いと感じたのは、まさに死臭であったのだろう。最初は女性の姿だがハゲ鷹のような姿に変身する。


  山岸作品 「ハーピー」

  
女面鳥獣 

  
ハーピーのような女面鳥獣に迦陵頻伽(かりょうびんが)がある。

 
 山岸作品 「鳥向楽」

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コボルト ヨーロッパ伝承
 家の精霊。名前の由来は、鉱物のコバルトからきているという説と、ギリシア語の「子供」と表す言葉からという説がある。一般的に金髪で赤い絹のコートを着た子供とされる。ドイツでは赤い帽子、緑の服を着た小人、イギリスでは完全な4足歩行の動物として語られている。また実体がないという説もある。コボルトは、住みたいと思う家に木切れを入れたりして、人間の反応を見る。人間は、コボルトをいつかせたくないと思えば、ゴミをきれいに掃除すればよい。逆にいついて欲しいと思ったら、そのままにしておけばいい。夜中になると人の見ていない間に家事をすませ、報酬として皿いっぱいのミルクをもらう。また予知能力があり、家の人に警告したりもする。

 「妖精王」では、ルシフェが花のムチを使って地中から呼び出した。バビブベ言葉(?)がわかるものが使えるらしい。ドイツ風に、帽子に子供の姿で描写されているが、ラン、リン、ロン、ナン全員が山岸さんの自画像と同じ顔。

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ニュクス ギリシャ神話
  ニュクスとは「夜」の意で、真っ黒な翼を持った途方もなく大きな鳥であるとされる。風によって孕み、エレボス(暗黒)の中に、銀色の巨大な卵を生んだ。この卵の中に金の翼を持つエロスが生まれ、彼が卵を割って出てきたときに、天地が分かれ、世界が創造されたといわれる。
  

 ニンフィディアでは、夜の女王として描かれたニュクスが地平線から現れると、すぐに夜がきてしまう。時々目についた美しい妖精をさらっていくこともあるので、彼女の姿が見えなくなるまでは身を隠しているほうがいいという。

 ギリシャ神話の世界創造説
 
・ニュクスという大きな鳥が産んだ卵から生まれたという、喜劇作家アリストパネスの歌による説。
・オケアノス(大地のはてにある大きな川)から、いくつもの川が生まれ、世界を生み出したというホメロスの詩による説。
・すべてはカオス(混沌)から生まれたというヘシオドスの「神統記」による説。


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ケンタウロス ギリシャ神話
ケイローン ギリシャ神話


 半人半馬の種族。 一般にケンタウロス族は、人間と比べ力が強く勇敢で有能な戦士であるが、性格は野蛮で暴力的、好色であるとされる。
 ギリシャ神話では、テッサリアの支配者イクシオンが、女神ヘラに恋し、怒ったゼウスが雲をヘラの姿に変えて彼に与え、そして生まれたのがケンタウロスという。
 また、乗馬の習慣を持たないローマ人が騎馬民族であるゲルマン民族の脅威にしばしばさらされていたところから、ローマ人の夢想が原型であるともいわれる。野蛮で暴力的ではあるが、その姿は美しく英知にとみ、「完全なる肉体」への憧れが具象化されたのかもしれない。

 「妖精王」ではケンタウロスが作る酒が絶品であるとされている。

 ケンタウロス一の賢者、ケイローンは、タイタン族のクロノスが妻の目を盗んで馬に姿を変え、オケアノスの娘ピリュラと交わって生まれた。ケイローンは医学、天文学を身につけ、冷静で知性にあふれ、イアソン、ヘラクレス、アキレスら多くの英雄たちの師でもある。 不死身のケイローンは、戦いで毒矢を受け、死ぬことも出来ず苦しむことになり、ゼウスに死を願い、命を落とすが、同情した神は彼を射手座として天においた。


 「妖精王」に登場するケイローンも冷静で知性にあふれている。爵やルシフェの素性も知っており、旅の手助けをしてくれる。(ルシフェには説教くさいやつといわれるが)

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ペガサス ギリシャ神話
ヒポグリフ ギリシャ神話
アリオン ギリシャ神話
クリュサオル ギリシャ神話

 翼のある馬ペガサスの姿は幻獣の中ではもっとも有名かもしれない。ペルセウスが退治した怪物メデュウサの血から生まれたといわれるが、父親はメデユウサと愛しあっていた海神ポセイドンといえるかもしれない。
 性格は用心深く、人前に姿を表すことはめったにない。しかし、一度主人と認めた者には従順で、神話では英雄の愛馬としてよく登場している。アテナの黄金の手綱があれば、自在に空をかけることができるともいわれる。ゼウスの稲妻を運ぶ役目をにない、ヘリコン山が天に届くほど高くなったときに、ひづめでこれを打ちつけ元の大きさに戻したという。そのひづめの跡にヒポクーネ(馬の泉)が湧き出し、これを飲んだ者は詩的霊感を得ることができるといわれ、ミューズたちが集まった。

 「妖精王」に登場するペガサスは、地上にいるときは天使のような姿であったりペガサスとケンタウロスの中間のような姿であったりする。爵を盲愛の対象とし、ヘリコンに連れ去ったヒポグリフは、天使のような(カマっぽい?)姿で描かれる。兄のアリオンは漆黒の美しいペガサス、天使のような姿、ケンタウロスのような姿と3種類に描き分けられている。弟のクリュサオルは、ペガサスの姿でないときはケンタウロスのような姿である。

 ヒポグリフは、グリフォンと普通の牝馬から生まれ、グリフォンを大人しくした感 じだといわれる。ちなみにペガサスの天敵はグリフォンである。

 「妖精王」のヒポグリフは、泉を湧き出させる能力を持つペガサス、湧き出した泉ヒポクーネ、そしてグリフォンの子ヒポグリフがアレンジされたのかもしれない。彼の盲愛が目を見えなくさせ、不思議な力を持つ馬の泉ヒポクーネを自らの手によって湧き出させ、目が見えるようになった。

 アリオンは、海神ポセイドンと豊穣の女神デメテルの間に生まれた伝説の駿馬であるとされる。
 
 「妖精王」のアリオン(ヒポグリフもクリュサオルも)は海神ヒッポテスの子と書かれているが、海神ポセイドンのことであろうか。ポセイドンは好色でしばしば馬に姿を変えて牝馬を追いかけたりしたという。
 
 クリュサオルは、ペルセウスが退治した怪物メデュウサの血からペガサスと共に生まれ、黄金の剣を振り回していたという。父親はやはり海神ポセイドンということになる。

 ポセイドン神

 
海の神で英語ではネプチューンという。黄金のたてがみを持つ白馬のひく戦車に乗り、手に三つ又の槍(トライデント)を持ち、海の怪物を従えて海原をかける。その槍はあらゆるものを砕き、また地面を突いて泉を湧き出させる。馬に変身したり、貢ぎ物として馬を要求したりするが、人間はポセイドンから馬を与えられたともいわれる。

 デメテル

 
植物と豊穣の女神で成長や復活をもたらす神とされる。ゼウスとの間の娘を、冥界の王によってさらわれ、デメテルの嘆きで世界中の植物は枯れ果ててしまったという。日本神話の天岩屋扉の逸話と似ていないでもない。ちなみに彼女はポセイドンに襲われそうになったとき、馬に姿を変えて逃げようとしたが、馬好きのポセイドン相手では逆効果だったようだ。二人の間に生まれたアリオンが俊足なのは当然なのかもしれない。

 グリフォン

 
頭が鷲で翼を持つライオンのような合成獣。(いろいろな意味で)馬が好物である。

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ヘリコン ギリシャ神話


 アポロンとミューズ(詩神)たちの住む山。聖なる泉、アガニッペとヒポクーネがある。

 
「妖精王」のヘリコンは、天高く、美しい音楽といいニオイのただよう場所と描かれているが、とてつもなく滑りやすい道が地上まで続いている。ヘリコンに連れて来られた地上の者がヘリコンから出るには、連れてきた者が再び連れて出るか、この滑りやすい危険な道を降りてゆくかの2通りしかない。

 ヒポクーネ

 「馬の泉」のこと。ヘリコン山が天に届くほど高くなったときに、ペガサスがひづめでこれを打ちつけ元の大きさに戻したという伝説がある。そのひづめの跡にヒポクーネが湧き出し、これを飲んだ者は詩的霊感を得ることができるといわれ、ミューズ(詩神)たちが集まった。

 カメナ(ミューズ)

 ヘリコンの聖なる泉のまわりに集まる詩神たち。9人の女神の姿で描かれることが多い。
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ドュラハーン アイルランド伝承
 首のない女の姿をしており、自分の首を小脇に抱えている。首のない馬コシュタバワーにひかれた棺桶を運ぶ二輪馬車に乗って現れる。人の死の直前にやってきて、ドュラハーンが家の前で止まると、その家では誰かが死ぬといわれている。
 「妖精王」に登場するドュラハーンは、首のない中世風甲冑の騎士といったいでたちで、兜を小脇に抱え、馬に乗っている。ルシフェが召喚した。

 爵は、サラのアドバイスにより、ドュラハーンの首を落として助かった。
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チョンチョン インディオ伝承
 耳の大きな人の首。夜になると現れて、大きな耳で空を飛び、「チョンチョン」と奇妙な鳴き声を発する。魔術の使えるものにしか姿は見えないが、声は聞くことができる。危害を加えようとするものは逆に、チョンチョンの魔術により体を奪われ、チョンチョンにされてしまう。
 「妖精王」では、爵とプックが魔州湖にたどりついたときに、悪霊として登場する。角笛の威力ですぐに追い払うことが出来た。いわゆるザコキャラとしての扱い。
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ピュグマイオ ギリシャ神話
 キプロスの王、ピュグマリオンは自分の理想の女性像を石で彫らせたが、この彫像の女に恋をしてしまう。女神アフロディテが彼の思いを聞き届け、命を与えられた彫像は動き出すようになった。
 力尽きたクィーン・マブが最後のあがきとばかりにリンゴを投げつけると、彫像が動き出した。

「眠りからめざめよ ピュグマイオ」
山岸作品
「ねむれる森の…」にも彫像が動き出すシーンが登場する。
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クラケーン ノルウェイ伝承

 北極の海に住む想像を絶する巨大な怪物。ノルウェー語の極地「クラケ(Krake)」が語源とされる。18世紀にフランスで刊行された「軟体動物誌」で、タコの姿で紹介されたことから、巨大なタコのイメージが定着した。巨大なダイオウイカとする説もある。

 この怪物は腹をすかせているからか、自分の海域をおかされるのを嫌うためか、航行中の船舶を襲うといわれている。しかし、北欧ではクラケーンを海賊船を沈める海の守護神としてあがめる時代もあった。
 爵が魔州湖を泳いでいるとき、クラケーンによって湖の底、クィーン・マブの城砦にひきこまれた。
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バスト エジプト神話
 エジプト神話に登場する猫の女神。猫を守護する女神。猫の頭部を持ち、頭には太陽をあらわす円盤と王権をあらわす蛇、左手に杖、右手に生命の象徴である輪のついたアンク(十字架)を持つ姿で描かれる。
 「妖精王」では化け猫として描かれている。爵がクィーン・マブの城砦にたどりついたとき、爵の曾祖母でグィンの親友、エリザベスに出会うが、それは化け猫バストが変身していたのだった。角笛となめくじおばさんにもらった短刀で危ういところを救われた。
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ユニコーン 聖書
ペルシャ史
 聖獣。一角獣。一般には額に角をつけた白馬の姿で描かれる。 誰しも一度くらいはユニコーンと乙女が一緒に描かれた絵画を目にしたことがあるだろう。これは、ユニコーンが処女だけに心を許すという伝説によるものである。
はじめてその姿が紹介されたのは、紀元前5世紀。歴史家クレシアスの「ペルシア史」に、角を持つロバが登場している。その角は解毒剤になるといわれ、
19世紀に至るまで、ユニコーンの角の粉と称するものが売られたりしていたが、実際は一角鯨や犀の角であったらしい。

 神聖な力の象徴として、獅子とともに王侯貴族の紋章などによく使われている。スコットランド王家の紋章は有名。
 ユニコーンの由来は、旧約聖書の誤訳であるという説もある。二角獣の意味をもつ「レーム」という生き物が、ギリシャ語に訳されたおりに、一角獣をあらわす言葉になってしまい、さらにラテン語にも同様に訳された。ここで、「unicorn」の文字が見出される。
 「妖精王」では、地の精ノームじいさんが「モノケロス」と呼ぶと出てくる。巨大な一つ目の一角獣として描かれている。爵をしとめようとするが、「潔い」ので魔力が通じないという。処女=童貞ということか。
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アプサラス インド神話
 上半身に翼のある人間で、下半身は鳥の姿をしている楽神ガンダルヴァの妻で、天界の踊り子である。夫婦で、聖なる樹パンヤンに棲む。
 「妖精王」では、白鳥に変身する死者の魂を運ぶ乙女として描かれる。白鳥が来るので有名な北海道のトド原とリンクしているらしい。
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レタル・カムイ アイヌ語
アイヌ語で、「白い神」の意。
レタル( retar)= 白い
カムイ( kamuy)=神

愛するものを死の国へと連れてゆく氷のように冷たく残酷な冬の死の神。セタや巨鳥フリーを下僕とする。爵とオキュロエが、ヘリコンから危険な道をくだって降り立った極寒の地で待ちうけ、氷の剣で爵を一突きにする。しかし爵の血に反応した角笛によって駆けつけたクーフーリンたちに追い払われた。
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セタ アイヌ語
アイヌ語で、「犬」の意。
「妖精王」では「レタル・セタ」、白い狼の姿で登場する冬の冷気の精。セタに息を吹きかけられたものはカチコチに凍ってしまうという。目も見えず耳も聞こえないが、臭いと気配で存在を知る。退治するには縦にま二つに切る。
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九州・中国地方の民間伝承

 くだん。頭は人間で体は牛。人語を解するという。生まれて4、5日しか生きないが、飢饉、干ばつ、戦争などを予言し、必ず的中する。このことから「よって件のごとし」と言われるらしい。話の発生地は九州・中国地方に多い。
小説「件」を書いた内田氏の故郷は岡山県である。

 また、昭和20年前後、神戸近辺で「件」が生まれた、目撃した…というような流言、噂話が広まっていたという。ここから小松左京氏の名作「くだんのはは」が生まれたという話もある。

 「妖精王」では、爵がクーフーリンに対し、疑いの心を抱いたときに登場する。「猜疑心や偽善など人間の悪徳を食って生きている」という。爵とプックは件に追いかけられるが、牛は急に方向転換できないということを思い出し、窮地を脱する。
 ミノタウロス
ギリシャ神話に登場する頭が牛で体が人間の怪物。
ポセイドンは、クレタ島のミノス王が約束した生け贄を捧げなかったことに怒り、ミノス王の妻パシパエに罰を与える。美しい牡牛に恋焦がれるようにと。パシパエは名工ダイダロスに牝牛の模型を作ってもらい思いを遂げた。そのときの子供がミノタウロスである。

成長したミノタウロスは乱暴になり、手におえなくなった。困り果てたミノス王は、ダイダロスに命じてラビュリントス(迷宮)を作らせミノタウロスを閉じ込めた。そして、食料としてアテナイから毎年7人の少年、7人の少女を送った。

この事態を憂えたテセウスは、生け贄に混じってラビュリントスに侵入、ミノタウロスを倒す。脱出不可能と言われたラビュリントスも、ミノス王の娘アリアドネにもらった糸によって脱出することができた。
【参考文献】

「幻想文学」56号 特集《くだん、ミノタウロス、牛妖伝説》

「日本俗信辞典」 鈴木棠三
《ウシ小屋のクモの巣を取ると家が壊れる》(広島)
《牛姦するとクダン(ウシの子で人語を解するもの)を生む》 (広島)
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ルシフェ キリスト教
 「傲慢」をつかさどる悪魔。ルシファー、ルシフェル、ルチフェルともいう。
天界では熾天使(セラフィム)と呼ばれる最高位の天使の一人であり、神に次ぐ力を持っていたが、神と敵対し、地に堕とされてしまう。
その名は、「光を掲げるもの」「曙の明星」といった意味を持ち、天界にいる時には、もっとも神に愛されていた。
 ミカエルによって地獄で鎖につながれたルシファーは、千年は幽閉されるはずであったが、まもなく地上に現れ、神への反撃を企てている。神の右腕として活躍する大天使ミカエルにそっくりで、双子の兄弟であったともいわれる。
「妖精王」のルシフェは、傲慢な美青年として描かれ、途中、爵たちの旅に加わる。爵を追いかけるために山羊のような姿に変身したとき、プックに羅刹国(ディモランド)の王子と見破られる。爵をやっつけるかわりに水の指輪とマブの体を所望して、ドュラハーンを召喚する。しかしマブと寝たものは持てる妖力、魔力の全てを失ってしまうのだった…羅刹国に生まれながら自分を悪魔と認めることを恐れていたルシフェの最後の姿が悲しい。
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アエオロス ラテン語

風の支配者の意。
風を袋に閉じこめる力を有し、「オデュッセイア」ではオデュッセウスの帰国に対する逆風を閉じこめた袋を彼に与えた。
この項目の情報提供者は「黒死館徘徊録」素天堂さんです。
情報ありがとうございました。
「妖精王」では、サラマンダが水龍(グリュンデル)を利用して、有珠山の噴火とともにヘリコンへ昇ってきたシーンで、アリオンがアエオロスを召喚した。大きな袋から流れる風がたちまちのうちにヘリコンにたちこめた噴煙を追い払った。
「私と同じ血をくむヒッポテスの子 アエオロスよ 来たりて悪しき噴煙を流したまえ!!」
「聞きとどけたり 我兄弟よ」
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オキュロエ ギリシャ神話
速やかに流れる(女)の意。
岩波版「ギリシャ・ローマ神話辞典」には3人のオキュロエがいる。3人とも河の女神、妖精。

「妖精王」のオキュロエは、ケンタウロスの姿をしているので3人目のオキュロエと思われる。
『急流のかたわらで生まれたので、その名を得た。予言の力を有し、神々の意に反してケイローンとアスクレービオスに神々の秘密を教えた罰に、馬に変えられ、その後ヒッポーHippo《馬》なる名前となった』
この項目の情報提供者は「黒死館徘徊録」素天堂さんです。
情報ありがとうございました。
「妖精王」ではケイローンの愛娘。クリュサオルに囚われてヘリコンへ連れて行かれたときに、アリオンと愛し合うようになる。
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モノケロス 旧約聖書

一角獣のこと。ただし一角獣としてのイメージはギリシャ時代には稀薄であって、画像的には存在しないらしい。それがヨーロッパに伝わったのはいわゆる七十人訳といわれるギリシャ語の旧約聖書に、雄牛を意味するある単語にモノケロスという訳語をあてたことに始まる。さらにラテン語訳の嚆矢であるヴルガタ訳でも聖ヒェロニムスはその言葉を踏襲した。ただし、同時にギリシャ語のリノケロス、ラテン語のウニコルヌスも併用している。それが中世に至って図像学的に一角獣として花開くことになったらしい。
博物学的にはギリシャの歴史家「クテーシアス」によって東方の生物として記録され「プリニウス」等によって引き継がれた。


参考文献【一角獣】河出書房新社刊 R.R.ベーア著和泉雅人訳
この項目の情報提供者は「黒死館徘徊録」素天堂さんです。
情報ありがとうございました。
「妖精王」では、地の精ノームじいさんが爵たちに宝を奪われるのをおそれて召喚した。巨大な一つ目の一角獣として描かれている。
詳しくは「ユニコーン」
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フリー アイヌ伝承
十勝川の主で、片羽七里もある巨大な鳥。
住処かである神域(絶壁に開いた洞窟で「カムイロキ」と呼ばれる)を人間に汚され、怒り狂ったフリーカムイが、人々を襲うようになったため、ある人間の英雄が退治するというアイヌの昔話。

フリーカムイはもともと人間とはかかわりを持たず、毎日海まで飛んでいってはシャケやクジラを取って食べており、人間もカムイロキに近づかないようにしていたが、ある日、百合根を掘りに山に入った女の人が、うっかりカムイロキの近くの小川(フリーカムイの水飲み場)を泥足で渡ってしまった。かんかんに怒ったフリーカムイは国縫川周辺を暴れまわり(フリーカムイの翼の起こす風で辺りが真っ暗になったため、暗い川「クンネナイ」→「国縫川」となった)、日本海まで出て、海の主である大ダコの「ラートシカムイ」と戦うが、決着がつかず、ますます荒んでしまう。元の住処に戻らず、北海道中を鹿といわず人といわず攫ってはバラバラに引き裂くという乱暴狼藉を働くようになり、厚真村に現れて集落を荒らしまわっていたところを、支笏湖の近く「ルイカヤル」という村に住んでいた男に槍で退治されることになる。

「日本の伝説」には男の名前が載っていないが「恐ろしいほど大きな持ちもの…お膳を超えてしまうほど大きい男性自身を持っていた」と記されている。そのため、何回結婚しても妻が早死にしてしまう。そこで、鬱々として楽しまず、「ここまで大きいのは自分も化け物の一種なんじゃなかろうか、化け物なら化け物らしく死にたい」と世を儚んで、フリーカムイ退治に名乗りを挙げたという。「男性自身がとんでもなく大きい」という属性は、この男の神話的英雄性を示しているが、その一方、彼は妻たちを恋い、孤独を憂う人間の弱さを丸出しにしていた。

巨鳥に対して槍一本で立ち向かい、断末魔の巨鳥が槍を刺したまま飛び立ったときも「ああ、こうやって死ぬんだな…」と淡々としている勇者なのに、見事巨鳥を退治して生きて帰ってきた後、お祝いの席で妻たちの敵である自らの一物をねじ切って自殺してしまったという。
参考文献【日本の伝説】講談社文庫 松谷みよ子 著
(1975年に出版されたが現在は絶版)
この項目の情報提供者はスティルツキンさんです。
情報ありがとうございました。
 「妖精王」では、残酷な冬の死の神であるレタル・カムイの下僕として登場する。爵とオキュロエがフリーに襲われていると、ヒポグリフが現れて、自ら囮になって助けてくれた。
オキュロエいわく「フリーはなりは大きくても頭は悪いんですもの」
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「海神ヒッポテス」
「ウォーター・ライス」
「グリュンデル」

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