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月読

Fantasy ★★★★
Horror ★★
Healing
Eroticism ★★★★★


 Story(つくよみ)

 月読命(つくよみのみこと)、月之男は夜を守る神である。姉である天照大御神(あまてらすおおみかみ)を慕うが、その思いはいつも、末の弟である須佐之男命(すさのおのみこと)によって遮られる。あるとき月之男は、天照の頼みで、豊穣の女神である保食の神(うけもちのかみ)から新しい食物の種を分けてもらうために出かけていった。しかし、ご馳走を作っている保食の神の姿を見て逆上、女神を惨殺してしまう。天照の策略におちたとも知らずに、月之男は許しを請いに姉の忌服屋(いみはたや)を訪れるが、そこで目にした光景は・・・
 
 三柱の神、天岩屋扉(あまのいわと)伝説の、山岸流の大胆な解釈の物語。女の腥(なまぐさ)さに翻弄されながらも、太陽を追わずにはおれない月の運命が悲しい。月之男はじめ三貴子のキャラクター設定が秀逸で、それぞれに美しい残酷性とエロティシズムが感じられる。神々のコスチュームもすばらしい。


Key Word Origin
月 読 古事記
 
 黄泉比良坂から千引きの石によって逃げのびた伊邪那岐神が身を清めるための禊(みそぎ)をした際に右目を洗って生まれたのが夜の国をおさめる月読命である。古代では暦を司り、夜に光を与えることで、天照大御神以上に信仰されていたという。しかし、天照の子である保食の神が、あらゆる食事で月読命を歓待した際に、その食物が保食の神の口、肛門から出たことを知って、月読は保食の神を殺してしまう。(この屍体から五穀が生まれた)以来、天照と月読の仲は悪くなり、月読は十五人の黒衣を着た者、十五人の白衣を着た者と共に月に去り、昼と夜が分かれた。

 山岸版保食の神は豊満すぎる肉体の女性。ビジュアル的に天照の娘という設定はかなり難しいかもしれない。彼女が酒を醸すシーンを見たら月読でなくとも怒るのは当然だと思うが・・・
 山岸版月読は、青白い肌に冷たい瘢痕(肌に傷をつけ、癒えないうちに銀砂をふりかける。一種の刺青であろうか)を持つ暗い印象の美青年。天照は、黄金色の肌に美しい淡桜(うすざくら)の瘢痕を持つ気高いが傲慢な美女。そして須佐之男命は、可愛らしい童顔に似合わず、たくましい赤銅色の肌で、ところかまわず泣き叫ぶ乱暴者といった設定で、イメージとしては神話の神々と根底でつながっている。

Key Word Origin
天岩屋扉 古事記

 天照大御神の神聖なる忌服屋で、須佐之男命が狼藉をはたらいたことを嘆き悲しんで、天照が岩屋にこもってしまった有名なエピソード。太陽の神がかくれてしまったので世界は闇に包まれ植物は枯れはて悪鬼が跋扈をはじめた。困った八百万の神々が出雲に集い対策案を練った。(よって、この月を神無月という。出雲でのみ神在月)その案というのは、天岩屋扉の前で盛大なる宴をもよおし、天照の気をひくというものであった。踊りの名手である天宇受売命(あまのうずめ)が踊ると八百万の神々が拍手喝采(天宇受売命が衣服を脱ぎ始めたからだという説も)、天照は気になって岩屋の扉を少し開けた。そして自分よりも貴い神が現れたと聞いて外の様子をうかがうと、自分に似た女神の姿(鏡にうつった自分の姿)があった。もっとよく見ようと体を乗り出したところ、怪力の大手力男神(あまのてじからのみこと)が扉を引き開けて天照を外に引っ張り出すことに成功し、世界に光が戻ってきたのである。そして須佐之男は手足の爪を剥がれ高天原を追放された。

 山岸版「月読」では、忌服屋に馬の生皮を投げ入れたのは月之男になっている。天照と須佐之男は合意のもと情事に及んだはずであるが、天照は罪をすべて須佐之男に押しかぶせ、天岩屋扉騒ぎという狂言をも繰り広げた。月之男は天照に翻弄され疲れ切って高天原を去る。しかし高天原に未練はなくとも、天照の裸体にほどこされた淡桜の美しい瘢痕が心に焼きついて、いつまでも離れない。この微妙な心理描写が物語に深みを与えている。

 デメテル

 天岩屋扉伝説は、ギリシャ神話、デメテルの失踪事件に似ている。

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