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千引きの石

Fantasy
Horror ★★★★
Healing
Eroticism


 Story(ちびきのいわ)

 東京からN市の中学校に転校してきた水谷可南子は、裏庭に建っている古びた体育館周辺で何度も人影を目にする。ある日、好奇心から体育館に足を踏み入れた可南子は、大切な宿題を置き忘れてきたことに気づいて取りに戻った。しかし突然、戸口が閉まり、無人の体育館が地獄絵図と化した・・・
 
 戦時中に瀕死のケガ人が大勢運び込まれた体育館という、学校の怪談的な物語であるが、体育館の戸口と黄泉比良坂の千引きの石を重ねることで、あの世との境目の恐怖が迫ってくる。「癒し度」の★一つは、神主の息子と強靭な神経の持ち主である友人たちに。しかし、ラストに不安感を残す描写が・・・



Key Word Origin
千引きの石 古事記
 
 伊邪那美神は国生みの後に、海、地、風、木、山などの神々を次々と生んでいったが、最後に火の神、火之迦具土神(ひのかぐつちのかみ)を生むときに陰部に火傷を負って死んでしまう。伊邪那岐神は嘆き悲しみ、死後の世界である黄泉の国へ愛する妻を訪ねていき言葉を交わす。しかし、決して見てはいけないと念を押されていたのにもかかわらず、火をともして妻の姿を見てしまう。なんと妻の体からはウジがわき醜悪な異形と化していた。醜い姿を見られた伊邪那美神は怒り、黄泉の軍隊に伊邪那岐神を追わせ殺すように命じる。伊邪那岐神は、櫛の歯を折ってタケノコを生やしたり、桃の実を投げたりして、軍隊を退け、黄泉の国とこの世をむすぶ黄泉比良坂にたどりつき、「千引きの石」(1000人で引くことのできる大岩)で黄泉の国への戸口をふさいで逃げのびた。
  「千引きの石」の向こうで、伊邪那美神が「あなたの国の人間を一日に1000人殺す」と脅かすと、伊邪那岐神は「では、一日に1500人の人間を作る」と答えた。
  そして伊邪那岐神が身を清めるための禊(みそぎ)をすると、脱ぎ捨てた衣服から次々と神々が生まれた。最後に左目を洗うと、高天原をおさめる天照大御神(あまてらすおおみかみ)、右目を洗うと夜の国をおさめる月読命(つくよみのみこと)、鼻をあらうと海原をおさめる須佐之男命(すさのおのみこと)が生まれた。
 「千引きの石」では、桃の実ならぬ桃のコンポート(家庭科の調理実習で作られた)が、魔除けとなって可南子は助かった。
 オルペウスエウリュディケ

 伊邪那岐神と伊邪那美神の黄泉比良坂の物語は、ギリシャ神話、オルペウスとエウリュディケのタルタロス(死者の国)の物語に似ている。
 オルペウスは、愛する妻エウリュディケが毒蛇にかまれ死んでしまったことを嘆き、妻を返してもらいにタルタロスへ出向いた。竪琴の名手であるオルペウスは、その美しい音色でタルタロスの番犬ケルベロスを眠らせ、闇の支配者ハデスの怒りをもおさえて、願いを聞き届けてもらうまでに至る。ハデスが出した条件は、「死者の国を出るまでは決して振り返って妻の姿を見てはいけない」というものだった。何度も振り返りたい衝動を抑えつつ、ようやく死者の国の出口にさしかかったが、先ほどまで聞こえていた妻の足音が消えたのでオルペウスは思わず後ろを振り返ってしまった。その瞬間、妻エウリュディケの姿はかき消えてしまった。
 どちらも、約束を違えてしまったことから起こる悲劇の物語であるが、このエピソードに限れば、伊邪那岐神と伊邪那美神の黄泉比良坂物語のほうが残酷で怖いかもしれない。

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