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Fantasy |
― |
Horror |
★★★★ |
Healing |
― |
Eroticism |
★★★ |
Story(よもつひらさか)
「わたし」は深い緘黙(しじま)の中で覚醒するが、手足、体はなく、目も見えず耳も聴こえず口もきけなくなっていることに気づく。しかし寂しい暗闇の世界で、人間の気配を感じるときだけ、五感が取り戻せるのだ。小さな女の子のあとを追っていくと、彼女の祖母に追い返されてしまうが、憎しみに猛ぶ女のそばにいくとホッとする。そして「わたし」は過去を思い出した。夫に裏切られ、互いの憎しみで喰うか喰われるかの壮絶な戦いの末、殺されてしまった・・・?「わたし」はなおも常闇の中で横たわるだけだが、自分を救うために憎みつづけなければならない、そういう人間を見つけたときにだけ、「わたし」は蘇ることができる!
常闇に漂う着物姿の女性の一人称で語られる物語だが、憎しみに寂しさに身悶えする姿、黒いものを抱えた人間にとりつくラスト・シーンは、この上もなく恐ろしくエロティックである。
黄泉の国とこの世をむすぶ場所。伊邪那美神は国生みの後に、海、地、風、木、山などの神々を次々と生んでいったが、最後に火の神、火之迦具土神(ひのかぐつちのかみ)を生むときに陰部に火傷を負って死んでしまう。伊邪那岐神は嘆き悲しみ、死後の世界である黄泉の国へ愛する妻を訪ねていき言葉を交わす。しかし、決して見てはいけないと約束したのにもかかわらず、火をともして妻の姿を見てしまう。なんと妻の体からはウジがわき醜悪な異形と化していた。醜い姿を見られた伊邪那美神は怒り、黄泉の軍隊に伊邪那岐神を追わせ殺すように命じる。伊邪那岐神は、櫛の歯を折ってタケノコを生やしたり、桃の実を投げたりして、軍隊を退け、黄泉比良坂にたどりつき、「千引きの石」(1000人で引くことのできる大岩)で黄泉の国への戸口をふさいで逃げのびた。
あの世へもこの世へもいけない魂が漂う場所としての「黄泉比良坂」であろう。