BACK
Fantasy |
― |
Horror |
★★★★ |
Healing |
― |
Eroticism |
― |
Story(めでぃあ)
有村ひとみはボーイッシュな短大生。女のもとへ去った夫と夫の家族を憎みつつも、妻の座にしがみつく母親からの自立を考えている。母親は子離れができず、何から何までひとみを干渉し縛りつける。短大の女性学の講義で「子殺し」の話を熱心に聞いていたひとみだったが、母親を気遣いながらも一人で留学を決意したとき、彼女もまた母親の犠牲となった。
山岸作品には、子供が親の犠牲になる物語が少なくない。「スピンクス」「鬼来迎」「鬼子母神」「コスモス」「鬼」「緘黙の底」、また「天人唐草」「夜叉御前」「汐の声」は、子供にも理由があったかもしれないが、親の犠牲という側面もある。この作品には、ギリシャ神話の王女メディアの「子殺し」エピソードが出てくるが、このエピソードを聞いたひとみが、「心変わりした男のほうを殺すなぁ」と潔く言っていただけに不憫である。
アルゴー・ノートのイアソンが、コルキス王アイエオスから黄金の羊の毛皮とひきかえの無理難題を押し付けられ困っていたときに、イアソンに恋したアイエオスの娘メディアが不思議な魔力で助けてくれる。そうして難題をといたイアソンであったが、アイエオスは夜に船を襲い皆殺しにしようとした。メディアは結婚を条件に、イアソンに黄金の羊の毛皮を与え、イアソンとメディアは弟アプシュルメスを伴って国から逃げ出した。アイエオスは子供たちがさらわれたと思い追いかけ、追いつかれそうになったとき、メディアは弟を、父アイエオスの目の前でばらばらに殺し肉片をばらまいた。アイエオスが肉片を拾い集めている間にイアソンとメディアたちは逃げ切った。
アルゴー・ノートは多くの困難な航海を乗り越えイオルコスに帰り着く。しかし、イアソンが戻ることはないと考えていた国王ペリアスはイアソンの両親を殺害していた。イアソンはメディアに相談し、ペリアス一族に毒を飲ませ殺害した。この行為はイアソンを信じ共に航海してきたペリアスの息子アカストスを怒らせ、彼が王となり、市民の力を得てイアソンとメディアを国から追放した。
国を追われたイアソンとメディアはコリントスへ向かい、王クレオンは二人を歓迎し、メディアはここで二人の男児を産む。クレオンはイアソンを気に入っており、後継ぎがいないので娘グラウケと結婚してこの国の王にならないかという。イアソンは王の若い娘を選び、メディアを追放した。メディアは、結婚式でグラウケが着る衣装に魔法をかけ、娘は燃え出し、これを止めようと、父クレオンも一緒に炎に包まれた。そしてメディアは、イアソンの目の前で、彼との間の子供たちを殺してコリントスを去った。
山岸「メディア」の母親は、子供の自立がたえられず凶行におよんだが、ギリシャ神話の「メディア」は、国を捨ててまで付き従った愛する夫イアソンの裏切りに対する復讐のためであった。母親という役にしがみついた女と、女として愛されることだけをのぞんだ母親。理由は違えども、どちらも気性と思い込みの激しさは似ているかもしれない。
1969年にピエル・パオロ・パゾリーニ監督がオペラ歌手マリア・カラスをメディアに選び、「王女メディア」という素晴らしい作品を撮っている。