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負の暗示

Fantasy
Horror ★★★★★
Healing
Eroticism


 Story(ふのあんじ)

 昭和13年5月某日、一僻村でおきた日本犯罪史上にも稀な凄惨な事件をもとに、作成された負のサイクルに囚われたひとりの男の物語。
 土井春雄は、秀才であったが、体力的、金銭的な理由で、進学をあきらめなければならなかった。さらに、肺病を患ったため村人たちに排斥され、親しくしていた女たちも彼をバカにしだした。春雄は村内で孤立し、村人たちへの恨みをつのらせ、そしてある復讐計画をたてる…!

 大量殺人をおこすにいたった過程が容赦なく事細かに語られているために、読者は否応なく凄惨な事件を目の当たりにすることになる。「負のサイクル」という言葉の巧さに加え、自分を見失った人間の、逃避してしまう人間の、心の弱さを見事に描写している。

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Key Word Origin
昭和13年の
凄惨な事件
津山事件
土井春雄 都井睦男
 
 作品末に記してある参考資料(松本清張著「ミステリーの系譜」中野並助著「犯罪の通路」)から、昭和13年に岡山県津山地方の小さな村で起こった「津山事件」が元になっていると推察できる。

「ミステリーの系譜」松本清張(中公文庫)
三件の犯罪事件のノンフィクション・ルポ。第1件に「津山事件」が取り上げられている。

第一件『闇に駆ける猟銃』
「津山事件」の概要とレポート。犯人の成績表や、あまりにも有名な『頭に2本の懐中電灯、胸に自転車用のランプ』のイラストの紹介、実名(都井睦男・といむつお)の記載など資料としてすぐれている。

第二件『肉鍋を食う女』
昭和二十二年二月頃、長野県尾沢村の天野秋子は継娘トラを殺害、その肉を山羊の肉と称して三人の子供と食べてしまった。

第三件『二人の真犯人』
大正四年四月二十九日、東京・鈴ヶ森で砂風呂のおかみが殺された。容疑者Aが逮捕され犯行を自供したが、前科六犯のBが犯行を名乗り出た。驚くべきことに二人とも起訴され、三年後、Bの死刑が決まった。


【関連図書】

「津山三十人殺し」筑波昭(草思社)
この本は、第一部「事件」が「惨劇」「事後」「論評」の三章からなっている。
第二部は「犯人」、一歳から事件を起こす二十二歳(数え年)までの犯人の一生が、綿密な取材をもとに書かれている。

司法省刑事局報告にはこう書かれていたという。

本件は昭和13年5月21日午前1時頃より同3時頃までの間に、岡山県津山市の北方約6里の苫田郡N村の一部落に発生した一青年の凶暴凄惨極まりなき犯行である。犯人はまず自己が幼少より慈育された祖母の首を大斧にて刎ね、ついで九連発猟銃及び日本刀その他の凶器を携え、異様の変装をなし、民家11戸を襲い、僅か1時間足らずの間に死者30名重軽傷3名を出したるのち、同日午前5時頃現場付近で猟銃自殺を遂げたもので、我が国のみならず、海外に於いても類例なき多数殺人事件である。



「八つ墓村」横溝正史(角川文庫) 
1951、1977、1996年に映画化。

「丑三つの村」西村望(徳間文庫)
1983年に映画化。

「龍臥亭事件 上下」島田荘司(光文社文庫)

さらに、ホラー小説界の新星、岩井志麻子が「ぼっけえ、きょうてえ」「岡山の女」に続き、岡山ホラーの第3作目の題材として選んだのが、この「津山事件」であるという。

事件そのものが十分に怖いのだが、山岸さん描くところの人間の脆さ、狂気にとりつかれた目の描写が秀逸!「癒し」の★ひとつは、負のサイクルに囚われた人間の行く末を私たちに暗示してくれたという点において。
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