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江戸川乱歩 十選


by 「尖端猟奇大パノラマ」の大江十二階さん

作品名 収録本
孤島の鬼 創元推理文庫  「孤島の鬼」
春陽文庫  「孤島の鬼」
角川ホラー文庫 「孤島の鬼」
押絵と旅する男 春陽堂書店 「屋根裏の散歩者」
創元推理文庫  日本探偵小説全集2 「江戸川乱歩集」
角川ホラー文庫 「屋根裏の散歩者」
ちくま文庫 江戸川乱歩全短篇 3 怪奇幻想
国書刊行会 日本幻想文学集成 14 「江戸川乱歩 パノラマ島綺譚」
筑摩書房 ちくま日本文学全集 19 「江戸川乱歩」
パノラマ島奇談 創元推理文庫  日本探偵小説全集2 江戸川乱歩集
春陽文庫  「パノラマ島奇談」
角川ホラー文庫 「鏡地獄」
国書刊行会 日本幻想文学集成 14 「江戸川乱歩 パノラマ島綺譚」
陰獣 創元推理文庫 日本探偵小説全集2 「江戸川乱歩集」
春陽文庫  「陰獣」
角川ホラー文庫 「鏡地獄」
ちくま文庫  江戸川乱歩全短篇 2 本格推理U
春陽文庫 「屋根裏の散歩者」
創元推理文庫 「D坂の殺人事件」
ちくま文庫 江戸川乱歩全短篇 3 怪奇幻想
角川ホラー文庫 「夢遊病者の死」
人間椅子 創元推理文庫 日本探偵小説全集2 「江戸川乱歩集」
春陽文庫 「人間椅子」
新潮文庫 「江戸川乱歩傑作選」
角川ホラー文庫 「鏡地獄」
ちくま文庫 江戸川乱歩全短篇 3 怪奇幻想
筑摩書房 ちくま日本文学全集 19 「江戸川乱歩」
屋根裏の散歩者 創元推理文庫 日本探偵小説全集2 「江戸川乱歩集」
春陽文庫 「屋根裏の散歩者」
新潮文庫 「江戸川乱歩傑作選」
角川ホラー文庫 「屋根裏の散歩者」
ちくま文庫  江戸川乱歩全短篇 2 本格推理U
筑摩書房 ちくま日本文学全集 19 「江戸川乱歩」
黒蜥蜴 創元推理文庫 「黒蜥蜴」
春陽文庫 「黒蜥蜴・湖畔亭事件」
闇に蠢く 春陽文庫 「暗黒星・闇に蠢く」
地獄風景 創元推理文庫 「盲獣」
春陽文庫 「月と手袋」 

「闇に蠢く」平凡社・1935年「陰獣」博文館・1928年「孤島の鬼」改造社・1930年(絵・竹中英太郎)


内容紹介

『孤島の鬼』

まだ三十にもならぬうちに髪が真っ白に変化してしまった男。彼の妻の膝には、大きな赤いアザがある。男、蓑浦は、それらの秘密を説き明かす前代未聞の身の上話に筆をとった。

事の発端は、蓑浦のかつての恋人、初代が、密室で何者かに殺されたことだった。
捜査にのりだした素人探偵も、正体の分からない恐るべき悪党によって、早々と抹殺されてしまう。
事件の謎を解く鍵は、初代が蓑浦に語っていた夢の景色の中にあった。

謎解き、冒険、スリル、同性愛、見世物小屋、これら総ての要素を網羅した、江戸川乱歩随一の感動娯楽巨編!
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『押絵と旅する男』

「いけません。いけません。さかさでのぞいてはいけません」
魚津の蜃気楼を見に行った帰りの汽車のなかで、「私」は押絵と旅をする男に出会う。男は汽車の窓に立てかけていた押絵を、双眼鏡で覗いてみてくれと言う。
その押絵は、年老いた男と、その老人の膝にしなだれかかっている美少女の、二人の構図だった。
やがて男は、押絵のなかの老人の身の上話をし始めるのだった。

舞台は明治大正時代の幻の建築物、浅草十二階。乱歩の幻想が頂点に達した不朽の名作。
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『パノラマ島奇談』

「もしわれに巨万の富を与えるならば」
書生ともごろつきともつかぬ夢想家の人見広介は、地上に夢の理想郷を造ることを胸に描いていた。折しも、彼と瓜二つの容姿をもった大財閥の主人が急死したことから、その主人の生き返りを装って、財産を手中におさめてしまう。まんまと巨万の富を得た彼は、離れ小島に自分の夢を実現させていく。
海底トンネル、人工の大森林、大機械の平原、美女たちの蓮台……。
ただ、彼にとって気がかりだったのは、偽主人の彼に疑いをもつ、元主人の妻、千代子だった。

江戸川乱歩以外の作家には、決して書き得なかった、ユートピア文学の最高峰。
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『陰獣』

理知的な探偵径路にのみ興味を持つ、探偵小説作家の寒川。変態的な犯罪者の心理ばかりに興味を持つ、同じく探偵小説作家の大江春泥。この対照的な二人は、互いの作風を忌み嫌い軽蔑さえしあっていた。
十月半ば、寒川は上野の帝室博物館で、うなじにミミズ腫れの傷痕のある優艶な女性、小山田静子と知り合う。
彼女は、女学生時代に恋の真似ごとをしたことのある男から、身の危険を感じるほどの嫌がらせを受けていることを、寒川に告白する。その男は、あろうことか、大江春泥だった。
寒川は、静子を守るために大江春泥と対決してくうち、静子のミミズ腫れの傷痕の意味に突き当たるのだった。

江戸川乱歩、本格推理もののなかでも、最も秀作であるとの声が高い代表作。
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『虫 』

世にたぐいもあらぬ厭人病者の柾木愛造は、今は劇場でサロメを演じる人気女優、木下芙蓉が、小学校時代の顔見知りであったことを知る。
それ以来、愛造は、この木下芙蓉に人の道ならぬ人外境の恋を抱き始める。まさに、悲劇はそこから始まった。
そもそも表題の「虫」の意味とは何であったのか。それは世にもおぞましき死体愛好行為への呪いの代償であった。

乱歩のグロの部分がものの見事に開花した、ネクロフィリア文学に燦然と輝く珠玉の一品。
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『人間椅子』

女流小説家の佳子は、彼女の未知の崇拝者からの手紙に目を通すのが日課になっていた。そんなある日、手紙とは言い難い、表題も署名もない原稿用紙の束が彼女のところへ送られてきた。
その内容は、椅子製造職人の男の、いとも風変わりな性倒錯生活の告白文であった。椅子の皮一枚を隔てて接触する、異国の乙女、踊り子の体……。

乱歩は、フェチシズム犯罪文学に偉大なる傑作品を残した。
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『屋根裏の散歩者』

なにをやってみても、いっこうこの世が面白くない郷田三郎は、ある日、屋根裏を徘徊する楽しみを見いだした。彼はそこで、世にも風変わりな犯罪の試みを思いついたのだった。
その彼の前に立ちはだかったのは、犯罪ものや心理学に興味をもち、かつては彼の犯罪嗜好癖を満足させる良き話し相手だった猟奇者、明智小五郎であった。

完全犯罪を追求した、江戸川乱歩代表作の一つ。

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『黒蜥蜴 』

女賊・黒蜥蜴と名探偵・明智小五郎との宿命的な対決。二人には、次第に恋愛感情らしきものが芽生えはじめた。

恋愛とは、直感的なものです。そこには、なぜ好きになったのかという理由などありません。
そもそも黒蜥蜴は、作中で一言も「好きだ」という言葉を吐きませんでした。
そのような言葉が一切書かれていないにもかかわらず、読者は、密かに明智に恋をしているらしい彼女の胸中を察してしまうのです。
それゆえに、私はこの乱歩の優れた作品を崇拝するのです。
黒蜥蜴については、その生い立ちすらも何ら語られることはありません。彼女は、生きた人間を剥製にしてしまおうとする残忍冷酷な女です。なのに、なぜ彼女がそんな女性になってしまったのかという、性格分析の描写すらないのです。
必要ないからです。
氏素姓は分からぬが、
黒蜥蜴という一人の女が存在し、その女は、唯一、明智のために涙を流した
それだけで、説明は充分なのでありましょう。

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『闇に蠢く』

愛する者を食べてみたい。
これは、究極の愛なのでしょうか。
食べてみたいという心理は成立しても、食べられてみたいという心理が果たして成立するものかどうか。
恐らく一方的な愛には違いないでしょう。

この物語りは、洋画家の野崎三郎が、モデルのお蝶と一緒に、信濃の山奥の温泉場にある、妖しげなホテルに逃げ込むことからはじまります。その逃避行は、何者かに追われているらしい、お蝶からの願いでありました。

踊り子お蝶、○×部落の出身であるという彼女からは、全編を通して言い知れぬ魅力が伝わってきます。
ジュウタンの上で泳ぐ真似をする、お蝶。トルコ風呂で三助をするホテルの主人に、体を揉まれるお蝶。
これら、お蝶の肉体的魅力の描写は、後半部に向けての、あの悪夢のような展開に功を成しているのではないかと、私はそう思うのです。
つまり、読み進むうちに、食べてみたくなるわけです
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『地獄風景』

富豪青年が建設せる裸女狂舞の猟奇の楽園、パノラマあり、観覧車あり、水族館あり、生人形の地獄極楽あり、中にも目立つ怪奇物は、古代エジプトのラビリンスにも比すべき大迷路、そこに起こる妖異不可思議の殺人事件、世にも恐ろしき迷路の殺人!犯人はそもそも何人(なにびと)?
<↑貼雑年譜(講談社)より一部引用した、初の江戸川乱歩全集刊行開始当時(昭和6年)の広告の文章>

江戸川乱歩自らが、この作品を「道化パノラマ島奇談」であると語っているように、この作品には、人を小馬鹿にしたような、ある意味では、とても生き生きとした異質な活力が感じられます。
乱歩は、原稿用紙の上に、「ジロ娯楽園」なるものを創造し、そこに幾人かの男女を住まわせ、まあ、とにかく、やりたい放題のことをやってのけたのです。「ジロ娯楽園」に、いっぱい自分の好きなものをゴチャゴチャと詰め込んで、好きなようにいじくり回して、そうして最後は無茶苦茶にしてしまったのです。私は、この作品に仄かな愛着を感じてしまいます。

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