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幸福の王子

Fantasy ★★
Horror
Healing ★★★★★
Eroticism


 Story(こうふくのおうじ)

 マーティンは、大富豪と結婚した、かつての恋人コンスタンスを追ってロンドンへやってきたが、今ではケチな盗みなどでその日その日を暮らしていた。ある夜、コンスタンスが嫁いだダヴィット家が破産し、夫妻が自殺というニュースを知ったマーティンは、ダヴィットの屋敷へ行ってみた。人気のない屋敷の中にはコンスタンスに似た10歳くらいの少年がいた。両親が自殺してから精神状態がおかしいらしいが、少年はマーティンについてきてしまった。自分が生活していくだけで精一杯のマーティンだが、いつしか少年といるだけで幸せになれるような気分になって一緒に暮らそうと思い始める。しかし、体の弱い少年を幸せにしてやれるだけの力がないことを思い知って・・・

 マーティンも山岸作品独自の饒舌キャラであろう。かつて愛した恋人と、その子供である少年を失った悲しみが、彼の饒舌なモノローグによって際立っている。悲しいけれども、幸せになれるような読後感だ。

 

Key Word Origin
幸福な王子 オスカー・ワイルド
 19世紀末のダンディズムを体現したオスカー・ワイルドの童話から。

 Original Story(幸福な王子)
 
 
町の中央に「幸福の王子」の銅像が建っていた。王子はツバメに町の困っている人たちに、自分の体にはめこまれた宝石を次々に持っていってもらった。南の国へ行かなければならないツバメであったが、王子の頼みを聞いて行く日を遅らせていた。自分の目にはめ込まれた宝石を持っていってもらって、もうあげるものが何もなくなってしまったとき、王子はツバメに「もう南の国へいってくれていいよ。ありがとう」と言った。しかし、ツバメは目の見えなくなった王子のそばを離れずに、毎日、空を飛んで、町の様子を話してあげた。ある日、ツバメは王子にさよならを告げた。「南の国へ行く決心をしてくれたんだね」「いいえ、もっと遠くの国へまいります」その夜、ツバメは寒さにこごえて、死んでしまった。

 マーティンについてきた少年は、まわりの人たちを幸せな気分にしてくれる何かがあった。まさに、幸福の王子そのもので、また、マーティンも彼のそばを離れなかったツバメだったのだろう。たった3日間、一緒にいただけの二人だったが、お互いに幸せだったに違いない。


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