BACK

鏡よ鏡

Fantasy
Horror ★★★
Healing
Eroticism ★★★


 Story(かがみよかがみ)

 雪の母親は女優の羽深緋鶴。20のときに雪を産んだので今は34だが、20代、いやそれ以上に若く美しくみえる。それにひきかえ、雪は白い肌以外は母と似ても似つかぬ体型で、学校ではイジメの対象になっていた。母は雪を恥じていたが、自分の7人の恋人たちが雪をちやほやするのを見ては険しい顔つきになる。ある夜、鏡の前で執拗に自分の裸体を見つめる母を見て、雪は「白雪姫」の魔法の鏡のシーンを連想した。それから後も、鏡に向かう母の姿は見かけられた。あるとき、母が8人目の恋人を連れてきたが、彼は雪にも好意を示し、母は激しく雪をののしった・・・

 自分の若さに不安をおぼえ、実の娘の若さに脅威と嫉妬を感じる、まさに「白雪姫」の世界である。自分の裸体を見つめる母親の姿には、凄まじい美への執着が感じられて怖い。



Key Word Origin
白雪姫 グリム童話
 Original Story「白雪姫」

 白雪姫を産むときに本当の母親である妃が死んでしまい、白雪姫の父親である王は、ある女性を後妻としてむかえる。新しい妃(継母)は、魔法の鏡を持っていて、ことあるごとに魔法の鏡にたずねる。
「鏡よ鏡、この世で一番美しいのは誰?」
答えはずっと妃その人であったが、白雪姫が7歳になったとき、鏡は「白雪姫のほうが千倍も美しい」と答える。その言葉を聞いた継母は、狩人に「あの子を森へ連れ出し殺しておくれ。その証拠に肺と肝を持って帰って来るように」と命じる。狩人は白雪姫を森へ連れ出すが、彼女に泣きつかれて、結局、彼女を森の中へ置き去りにして、代わりに、猪の肺と肝を持ち帰った。継母はその臓物を食べ尽くして安心した。しかし、白雪姫は森の奥深くで暮らす7人の小人の家に世話になることになった。ほどなく、魔法の鏡に白雪姫が生きている、という事実を聞かされた継母は、みずからの手で白雪姫を葬ろうと、胸を締め上げる紐や毒の櫛を試みるが悉く失敗する。最後の手段として、毒リンゴを持って行き、これを食べた白雪姫は仮死状態となった。7人の小人は、ガラスの棺を作って、彼女をその中へ横たえた。小人たちが彼女の死を嘆き悲しんでいるところへ、他国の王子が通りかかり、白雪姫の美しさに心打たれ、棺を譲って欲しいと小人たちに頼んだ。そして、棺を動かした時に、白雪姫の口の中から毒リンゴのかけらが吐き出され、彼女は生き返った。そこで、王子は白雪姫に求婚した。二人の婚礼に出席した継母は、真っ赤に焼かれた靴を履かせられて、熱さに踊りくるいながら、死んでいった。そして白雪姫は王子と末永く幸せに暮らした。


 以上が白雪姫のあらすじであるが、グリム初版では、継母ではなく実母となっている。版を重ねるごとに残酷な実母が継母へと姿を変えた。また、母親が白雪姫の美しさだけを憎んで葬る去ろうとしたのではなく、夫である王の愛(性愛)が白雪姫へ向けられていたからという解釈もある。母親が娘の臓物を食べたり、焼けた靴で拷問を受けるというくだりは2版以下にも出てくるが、実母との確執、実父との近親相姦の描写は大幅に変えられている。グリム兄弟は、血なまぐさい残酷描写には比較的寛容であったが、性的な表現は隠蔽しようとした向きが強い。狩人や7人の小人たちと性的な関係があったという類話も多い。また、通りかかった王子がネクロフィリア(屍体愛好家)であったとも言われている。最後に、ディズニーの「白雪姫」像に慣れ親しんでいるものにとっては、意外であろうが、白雪姫が森へ追われたのは、たった7歳のときなのである。

 山岸さんの「鏡よ鏡」に登場する女優である母親は、ディズニー映画などで描かれた一般的な継母像、魔女もしくは邪眼の女といった風貌が禍々しい美しさをにじませている。また、母親の恋人を娘がとってしまうという母娘の確執も童話の世界に重なる。
戻る