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シュバンクマイエルの不思議な世界

寄稿 ウチノリカさん

THE WONDERLAND OF JAN SVANKMAJER
「自然の歴史(組曲)」(1967年)
「部屋」(1968年)
「地下室の怪」(1982年)
「陥し穴と振り子」(1983年)
「男のゲーム」(1988年)
「闇・光・闇」(1989年)
「対話の可能性」(1982年)




監督:ヤン・シュバンクマイエル
上映時間 :83 分
製作国 :チェコスロヴァキア
ベルリン国際映画賞 金熊短編賞:受賞 「対話の可能性」




 相変わらず生理的な不安感を煽るような映像群。実写なのにコマ落としというか、パラパラ漫画というか、人形アニメ的手法というのかで、不思議な世界をかもしだしている。ラスト2作は、特にクォリティ高し。「闇・光・闇」では、部屋に粘土の手やら目やら耳やら人間の頭やらがやってくるだけのお話。手の指先に目がはめ込まれたとき、「寄生獣」のミギーを思い出して笑う。脳に舌に足にペニスにと足されていき、次第に人間のまともな姿にメタモルフォーゼしていく。ユーモラスかつなかなかの迫力。
 
 「対話の可能性」は3部作になっていて、『永遠の対話』『情熱的な対話』『不毛な対話』とグロティスクでありながら哲学的な内容。 『永遠の対話』は違う素材でつくられた生き物たちの食物連鎖か闘いのシークエンス。画家アルチンボルドの手法を取り入れて、センスもよいし一番好き。その後の『情熱的な対話』は、ラブラブなときはひとつに溶け合っているふたつの粘土人間が、不仲になったとたん激しい攻撃が始まる様を描いていて怖い怖い。テクニカルな面も素晴らしい。ほかに、人を拒む悪夢の「部屋」や、地下室へかわいい女の子がジャガイモを取りに行く話、不思議な国のアリスのごとき「地下室の怪」が好み。


 「シュバンクマイエルの世界」という分厚い本(国書刊行会)によると、「対話の可能性」は、当時のチェコスロヴァキア共産党中央委員会で、敬遠すべきものの見本として扱われたとか、「アリス」という作品を上映したときは、スイスで怒った親たちが子供を映画館から引っぱり出し、配給会社に訴訟を起こすといって迫ったとか、ドイツでは配給会社がまだみつからず、イギリスがもっとも好意的だった…なんてことが記述されてる。アニメといえば子供向き…と考える人たちの気持ちを、あえて逆なでするような作品をつくるシュバンクマイエルならではエピソード。彼のこだわり、創作の動機は、恐怖、夢、幼年期の状態に起因したモノであることが、よくわかる興味深い本だ。

 私はシュバンクマイエル言うところの、決まりきった見方をする大衆であり、「時代とともに歩む」俗物たちのひとりでもあるが、そんなゲージュツから遠い私でも彼の作品を面白いと感じる。つまり私自身はふたつの世界を行き来したいと願い、実際、片方の世界だけでは生きてはいけないんだな。けれどシュバンクマイエルのように彼独自の創作物をつくり続けるような人たちは、多くの人と同じような考え方、やり方、生き方には興味がないだろうしできない。まただからこそ他の人とは異なる作品をつくり続けることができるともいえる。
 独特なものをつくる人特有のある種の意固地さを彼から感じるし、意図的に世俗の様々なものをシャットアウトしないと追求できない種類のものなのかもしれない。それはまた作者にとっての自由獲得の旅ともいえるだろう。

 さて、臓器、骨、目玉のコラージュ、粘土人間の破壊、食物と性の関連性、私たちが彼の作品を観て、生理的嫌悪感を感じることが多々あるのは、明らかに道徳的タブーをねらい、心のなかの状態を大きく乱そうと目論み、あるいは平穏な気持ちでいられないような装置をつくっているがゆえ。ワタシはその目論みに見事ハマってしまったようだ。


ALICE

「アリス」(1988年)
監督:ヤン・シュバンクマイエル
上映時間: 85 分
製作国 :スイス



 ディズニーの絵柄で馴染んでる人も多いであろう『不思議の国のアリス』だが(私はあれはあれで大好き)、シュバンクマイエルの手にかかると、独特のシュールレアリスティックかつ残酷で怖いワンダーランドをつくりあげてしまうことになる。逆に原作に近いものができてるんじゃないかと思うぐらいで。またこういった題材が、人形と人間の合成アニメという手法に不思議とうまく合っているのもたしか。
 
 時間に追われるウサギの口元も怖いし、胸の裂け目からオガクズがこぼれるのも気の毒。ときどき手にするデカいハサミも妙に胸騒ぎがするし、骨の化け物や缶のなかに入ってる黒い虫やら肉の塊もえげつないし、靴下が部屋の床に穴をあけて砂虫よろしく蠢いてるのもおぞましい。そんな世界を、ただひとりロリータビューティ少女が右往左往してるんだから、もう好きな人にはたまらない作品だろう。

 この5年前につくられた「地下室の怪」が、かなり近いテイストだが、それをさらに深化させ完成度を高くした作品がこの「アリス」といえるだろう。
 
by ウチノリカ



ヤン・シュワンクマイエル

   (ヤン・シュバンクマイエル)

    チェコの人形アニメーション作家

水の話/プチ・シネマ・バザール(1957〜89)  監督
シュバンクマイエル短編集 (1965〜94)  監督+脚本+出演
シュバンクマイエルの不思議な世界 (1967〜89)  監督
アリス (1988)  監督+脚本
ファウスト (1994)  監督+脚本
悦楽共犯者 (1996)  監督+脚本+製作


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