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星の素白き花束の・・・

Fantasy
Horror ★★★
Healing
Eroticism ★★★


 Story(ほしのましろきはなたばの・・・)

 イラストレーターとして活躍する一人暮らしの聡子は、カメラマンの父親が亡くなったため、父親と愛人の間にできた15の少女をひきとることになった。その夏夜というクォーターの少女は、聡子が憧れ描きつづけたイラストから抜け出てきたように美しく可憐であった。美しい妹ができたと舞い上がっていた聡子であったが、夏夜の不可思議な言動は聡子に不安を抱かせた・・・

 近親相姦や美しい外見の内に潜む醜さが童話のモチーフと共に語られる。聡子がシャルル・ペローの童話「驢馬の皮」の挿絵を描く場面があるが、夏夜はどちらかというと、グリム初版「千匹皮」に登場する姫に似ている。



Key Word Origin
驢馬の皮 ペローの童話
千匹皮 グリム童話
  Original Story「千匹皮」

 美しい妃を亡くした王様は、「自分よりも美しく輝く黄金の髪の女性と結ばれるように」という妃の遺言を守ろうとしたが、妃以上に美しい女性は見つからず途方にくれていた。何年か後、久しぶりに見た自分の娘が妃に生き写し、いやそれ以上に美しかったので、王様は娘に求婚した。姫は困ってしまって、無理難題を出して王様をあきらめさせようと考えた。「お母様のドレスに負けない金のドレス、銀のドレス、そして星のようなドレスの3着と、千匹の違う種類の動物の毛皮を使ったマントを私のために作ってください」と。しかし、王様は難なく問題をクリアしてしまう。婚礼の前の夜、姫は意を決した。母の形見の金の指輪と、金の糸車、金の糸巻きを持って、そして千匹皮のマントを頭からかぶり、顔にすすをつけて城の外へ出た。しかし城のまわりにいたところを衛兵にとらえられ、料理番の下働きとして城の台所へ連れて行かれる。汚らしい獣の皮をかぶっているので皆から「千匹皮」と呼ばれ、毎日こき使われていたが、ある日、王様のお妃選びの舞踏会が開かれるというので、「千匹皮」は台所を抜け出して、かつての自分の部屋へ行き、すすを落とし、王様に贈られたドレスを身につけ、舞踏会へ顔を出した。王様は亡くなった妃、行方不明の姫にそっくりの謎の女性に心惹かれるが、彼女はすぐに広間から姿を消した。料理番が王様のスープを作るように「千匹皮」に命じると、彼女はスープの中に母の形見の金の指輪をしのばせた。王様に呼ばれた「千匹皮」は、しらを切りとおす。次の舞踏会のときには「千匹皮」は銀のドレスを着て登場し、スープには金の糸車をしのばせた。同じように3度目には星のドレスを着て舞踏会に出て、金の糸巻きをスープにしのばせた。王様は「千匹皮」を呼び出して問いただしたが、「千匹皮」はしらを切る。しかし、王様は舞踏会で踊ったときにこっそりと「千匹皮」の指に金の指輪をはめていたのだった。「そなたはやはり、私の愛しい花嫁だ!」と王様が近づくと、「千匹皮」は「私の愛しい花婿様」と笑みを返した。そして王様と実の娘である姫は結婚し、王子を産んだ。「今度は女の子が欲しいですわ.私によく似た・・・」
 ペローの童話「驢馬の皮」では、実の父親である王の求婚から逃れるために城を抜け出し、他国で苦労を重ねた姫が、その気立てと育ちの良さをその国の王子に気に入られ、結ばれるという結末になっている。しかし、「星の素白き花束の・・・」の夏夜は、実父との関係を忌み嫌うどころか、異母姉である聡子へ自慢するかのような素振りである。上に挙げたグリム初版「千匹皮」の姫も、実父との結婚から逃れようとしながら、戻ってきて思わせぶりな行動をとり父の愛を受け入れるのだが、その女のふてぶてしさと言い換えてもよいような不可思議な行動が、夏夜の男性に対する態度、実父との関係を嫌悪しない様子にも重なる。

 美しい外見と、甘く劣悪なにおいのコントラスト、「淫らで醜悪な事実」が「王と姫の悲しいメルヘン」として映る聡子の複雑な胸中が、読み手に痛いほど伝わってくる。
 

 タイトル「星の素白き花束の・・・」の原典
…について情報をお願いしておりましたところ、「黒死館徘徊録」の素天堂さんから貴重な声が寄せられました。

素天堂さん、どうもありがとうございました!


Key Word Origin
星の素白き花束の マラルメの詩

ステファヌ・マラルメ 「あらはれ Apparition」(鈴木信太郎訳)の終末部

人に驕(あまえ)し少年の美はしき夢路に その昔
光の冠(かむり)をいただきて、掌(てのひら)緩(ゆる)かに握りたる
御手(みて)より零こぼるる 香かも高き
素白(ましろ)き星の花束の
雪降ふらしつつ過ぎ行きし 妖女(えうじょ)を見しと、われは思ひぬ。



参考文献【フランス詩集】 新潮文庫版 村上菊一郎編 昭和27年刊(41年16刷)

 

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