VAMP NECROPHILIA ANOTHER SEXUALITY
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私的・犯罪書
BEST 5 

寄稿 スワボタンさん
作品名 著者名 本のデータ
魂の叫び
魂の叫び

11歳の殺人者、メアリー・ベルの告白
ジッタ・セレニー 
訳 古屋美登里
清流出版 2500円
子供たちは森に消えた
子供たちは森に消えた
ロバート・カレン 
訳 広瀬順弘
ハヤカワ・ノンフィクション文庫 760円
殺人評論
殺人評論
下川耿史 青弓社 2000円
佐川君からの手紙 唐 十郎 河出文庫 340円
無惨絵
江戸昭和競作無惨絵英名二十八衆句
丸尾末広 
花輪和一
リブロ・ポート
快楽殺人の心理
快楽殺人の心理
ロバート・K・レスラー 
訳 狩野秀之
講談社 1600円




 第1位 魂の叫び―11歳の殺人者、メアリー・ベルの告白

1972年に出版された「メアリーベル(マリー・ベル)事件」という本に私は衝撃を受け、以来この類の本をよく読むようになった。そして1988年、メアリー・ベルは40才になり、この本「魂の叫び」が出版された。
メアリー・ベルは10才のとき、幼児二人を殺した罪で終身刑となった。「メアリー・ベル事件」には、この辺の事情と、裁判の顛末が描かれている。「魂の叫び」は、その後のメアリーを描いたものである。
幼い頃、メアリーが性的虐待を受け続けていたこと、二人の幼児を殺害したときの具体的な状況などが、この本によって初めて明かされる。
本国イギリスでは、大変なセンセーションを巻き起こし、メアリー自身はおろか、被害者の遺族までがマスコミに追いまわされることになった。メアリーの子供に、母が殺人犯であることが知られ、被害者の遺族には”子供を二度殺された気持ち”だといわせたこの本の功罪は、深く検討されるべきだとしても、何故司法は、医療機関は、もっと早いうちに、メアリーが受けた心の傷を、そして事件の真相を探り出せなかったのか?
この本の罪と、司法、医療機関の罪を、秤にかければ、後者のほうが重いと言わざるを得ない。
ともあれ、私にとって40才のメアリーに再会できたことと、この事件の真相が30年近くたった今、明らかになったことは、ひとつの奇跡だった。

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 第2位 子供たちは森に消えた

稀代の犯罪者、アンドレイ・チカチーロは旧ソヴィエトの影の部分をそのまま体現したような人物。
スターリンの農業集団化政策によって貧しさのどん底につき落とされたチカチーロの母は精神を病み、その胎内にいたチカチーロは脳の一部に傷を受けて産まれた。
そして旧態依然なソヴィエト犯罪捜査、人々の体制への不信感などにより、チカチーロはついに50人の子供たちの命を奪ったのである。
著者は旧ソヴィエトの旧時代性を暴露しているが、一方で捜査官の超人的仕事ぶりや、わずかながら存在している開明的な精神分析医たちの鋭い分析力などを共感をこめて描いている。
この本を原作としてつくられた映画『シティズンX』(邦題『ロシア52人虐殺犯チカチーロ』)は、後述の肯定的な面を全面的に打ち出して、スティーヴン・レイ、ドナルド・サザーランドなど演技派の役者たちをそろえて感動的なサクセス・ストーリーとしてまとめている。
この本を読むたび、劣悪な政治状況のもとでもひたすらに耐え、”なければないでやる”たくましいロシア人の魂を見るような気がする。が、一方で、その劣悪さに多くの人々が命を失い、心に傷を負ったということも思い知るのである。

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 第3位 殺人評論(死体の文化史)

心理学的アプローチもありつつ、かつ主観も盛り込んだ読物としては格段に面白い本。
一見、奇々怪々に見える犯罪者の行動も著者の多様な解釈によって見事に動機づけされる。
幼児虐待が性的サディズムと断じ、”現実を直視することから社会はどうしてスタートしないのだろう?というのが、えい児殺し、幼児殺しに対する私の率直な感想である”などという下川氏の文章にとまどいを覚えながらも、この本に引き込まれていく理由は、この著者の柔軟さにある。

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 第4位 佐川君からの手紙
       江戸昭和競作無惨絵英名二十八衆句

だいたいにおいて、日本で出版された犯罪関係の本は客観的なものが多い。心理学的アプローチや、何事かを告発する、といった類のものはほとんど見当たらない。事件の経過の淡々とした記述、関係者の話…。それらの本は結局つまらない。
上にあげた2冊は日本で出版された犯罪関係の本の中で、”主観”に徹した珍しい本。
著者がアカデミックな犯罪心理学を学んでいないだけに、その妄想は実に一途で純粋ですらある。
丸尾氏のおどろおどろしさ全開の犯罪者像と唐氏が佐川一政に寄せる思いは、私たち読者が犯罪者に対して”こうではないか?”と想像する姿そのもの、思いそのものなのである。
しかし実際の犯罪者は単なる”実行者”であり、唐、丸尾両氏の純情さに価する人物ではないのだろう。佐川一政と唐氏の往復書簡は、どこかちぐはぐな印象なのである。

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 第5位 快楽殺人の心理
     
犯罪関係、特に異常殺人の著作は、このところ急激に増えたのだが、その中でこの本は殺人者のデータをとっている点で他の本とは少し趣を変えている。
だいたいが著者が勝手気ままに殺人者を分析している本が多いので、読者は共感できずにただ、センセーショナルな印象ばかりが残ってしまう。その点、この本を読んでいると一見普通ではあるが、実は、家族間の人間関係が異常である家庭の子供に犯罪者が多いという分析に、思わず納得である。(日本もまったく同じである)
これは、ひとごとの、どこかでおきた残酷物語ではなく、自分たちの問題であるということに否応なく気づかされる。
著者がFBIの捜査官で実際の捜査に参加していたということがこの本の何よりの強味。


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