CINEMA

ベルベット・ゴールドマイン
対談 いちげさん×ウチノリカさん×葉月
VELVET GOLDMINE(1998)
上映時間:124分
製作国 :英
初公開年月 :1998年2月

監督:  トッド・ヘインズ
出演: ユアン・マクレガー  
     ジョナサン・リース・マイヤーズ
     クリスチャン・ベール
      トニー・コレット
     エディ・イザード
     エミリー・ウーフ
     マイケル・フィースト
     リンゼイ・ケンプ
カンヌ映画祭最優秀芸術貢献賞:受賞



リカさん
⇒この映画は2回観たけど、そんなに印象に残らなかった映画でした。グラム・ロックがいかに表層的なムーブメントだったのか…しみじみしてしまいました。

葉月
⇒グラム・ロックをリアルタイムで聴いていた人やボウイのファンであった人たちには、あまり評判がよくないようですね。パンフの装丁とか、雑誌での取り上げられ方にしても、ファッショナブルというかスタイシュッシュな部分だけ取りざたされていたような印象もあります。

いちげさん
⇒グラム・ロックというジャンルは私にとってリアルなものではなく、遠い異国の伝説、ボウイファンであった一時期に後追いをして知ったムーブメントに過ぎなかったせいかもしれません。たとえばこれがパンク・ムーブメントのお話であれば、もっと自分に近しいものとして感じることができたかもしれない。なんといっても冒頭の空飛ぶ円盤!ワイルドの生家に落ちた赤ん坊、エメラルド・グリーンのペンダント、そしてそれらが百年後の物語へと続くのはいったいなぜだ〜?と問わずにはいられません(笑)なぜ、そんなおとぎ話のように描かれなくちゃならなかったのでしょう?

葉月
⇒若い世代にとっては実際「おとぎ話」なんでしょうね〜。私はグラムをあまり聴いてこなかったので、映画は映画として軽く楽しんだんですが。いちげさんやリカさんのようにボウイ周辺に思い入れがあると、いろいろと考えてしまうというか、かえって厳しい目になってしまうのは無理ないと思います。監督のトッド・ヘインズという人は、私たちより若い世代なんですよ。雑誌のインタビュー(「STUDIO VOICE 」Vol.276掲載)で彼は、この映画で「グラム・ロックの自殺」を描きたかったと言ってますが、そんなたいそうな〜と思う反面、あの描き方だからサラリと(表層的に)仕上がったのかな…とも。
セクシュアリティの描き方についてはどう思われます?

リカさん
⇒この映画では、性的にバイであることは、性制度から自由であるというよりも、ただ乱交に興じるための言い訳にしかみえなかったです。
唯一ニヤっとしたのは、ボウイらしき人とイギーらしき人が出逢った瞬間、瞳にハートが浮き出たシーンでした。唐突なギャグにプッと吹き出しました。

葉月
⇒これってゲイの監督にとってはマジだったんですよね〜?トッド・ヘインズという人は撮り方が少し変わっているらしいですよ。主役をバービー人形で撮影したという「カレン・カーペンター物語」(お兄さんが怒って上映禁止にしたらしい)とか、ジャン・ジュネの作品をモチーフにした「ポイズン」とか、評価が高いようで観てみたいです。

いちげさん
⇒「グラム・ロックの自殺」っちゃー、確かにたいそうですねえ〜。
私はあの瞳がハートになるシーンより、そのあとのマネージャーの目がドルだかポンドマークになる方がおかしかったです。バービーちゃんで作った「カレン・カーペンター物語」は私もぜひ見てみたい。「ベルベット・ゴールドマイン」でもブライアンとカートの人形遊びしてる少女たちがでてきましたよね。あれもおかしかったです。
セクシュアリティについては、ブライアンやカートよりも記者のアーサーの方が興味深かったです。ブライアンのバイセクシュアル宣言?をみて「これは僕のことだ!」と叫ぶ場面とか、ブライアンのレコードジャケットで自慰行為(^^;)におよぶシーンなどを見ていると、彼にとってのブライアンという存在は自分自身を解き放つ象徴だったような気がします。必ず男は女を好きにならなくてはいけないとか男は男らしくなどという規範から解き放たれることは、彼が生まれた家や両親、社会から追い出されることを意味するのですが、それもまた解放には違いないと思います。リカさんも言われてますけど、アーサーに比べたらブライアンやカート周辺の描かれ方は軽いなーと感じました。

葉月
⇒瞳がハートとか、お人形遊びとか、ある意味で少女マンガテイストもたっぷりですね。カート・ワイルドを演じたユアン・マクレガー、個人的に大好きなんですけど、ブライアン・スレイド役のジョナサン・リース・マイヤーズのほうが、この映画のグラムな雰囲気にあってたと思います。ボウイより甘い感じかな?トニー・コレット演じるマンディは、アンジーでしょうか。「悲しみのアンジー」ですね(笑)リンゼイ・ケンプを起用しているところなど、監督のボウイへの思い入れが感じられますね〜。どうせならミック・ジャガーらしき人やジョン・レノンらしき人も出してほしかったです(笑)

リカさん
⇒ところで、もろデヴィッド・ボウイの映画なのに、ボウイはこの映画に自分の音楽を使うことを拒否したそうですが、彼のイメージにとっては、結果的に良かったのかもしれないね。

葉月
⇒監督のインタビューによると、ボウイの大ファンなので何度も曲を使わせてくれと頼み込んだそうですが。でも、そうですね、ボウイの曲を使わないほうが絶対にヨカッタと思います〜。

いちげさん
⇒この映画でボウイの曲が使われてたらどうだったかなあ。リカさんや葉月さんの言われるように結果的に使われないでよかったかもしれないです。ところで、ボウイが断った理由はなんでしょう?

葉月
⇒一応は「『ジギー・スターダスト』の舞台をつくりたいから勘弁してくれ」という説明だったそうです。でもボウイはトッド・ヘインズ監督のことは評価しているらしいです。彼がボウイの大ファンだということで、そりゃ悪い気はしないでしょうし。描かれ方もさほど不満ではないらしい。

いちげさん
⇒ボウイは監督を評価してるんですか〜。曲を使わせなかったのはてっきり気に入らんかったのではと思ってましたが(笑)。この映画の終盤、カート・ワイルドとアーサーが屋根の上で抱きあいながら見上げる夜空に、UFOがきらきら光を降らせて飛んでいくシーンはよかったです。自然な感じだったし、なぜかとても胸を締めつけられました。そして酒場での二人の再会シーンにも。その時のカートの言葉なんですが、「世界を変えようとして、自分を変えてしまった」というのは、まるでボウイにも通じるようなしみじみ〜とした言葉でした。映画の最後に出てきた別人ブライアンを見ましても、なんつーか「レッツ・ダンス」の頃のボウイを彷佛とさせるものがあり、この映画ってボウイに対する皮肉なのかとさえ思ってしまいます(^^;)
 
葉月
⇒皮肉という言葉で思い出したんだけど、監督は「グラム・ロックは、オスカー・ワイルドから続いている皮肉をこめたダンディズムの伝統にのっとっている」と言ってました。これは、イギリス的というか、幻想を作り上げていくというような点でわかるような気がするんです。だからカート・ワイルド(=イギー・ポップ)らアメリカの元祖パンクな精神との融合が面白いな〜と個人的には思いました。

いちげさん
⇒そういえば以前、リカさんがジギー時代のライブ映画の存在を話されてましたよね?私は確か映画館じゃなくて中野サンプラザかどこかでフィルム・コンサート(果てしなく古い…)状態で見た記憶があるのです。内容はまったくといっておぼえてないのですが、まだ彼に対して思い入れがあった時だったので胸を熱くして観ていたと思います。

リカさん
⇒ビデオが一般家庭に普及する以前は、よくフィルム・コンサートやってましたよね。懐かしい。1973年につくられたライブ映画「デヴィッド・ボウイ〜ジギー・スターダスト」は今年だったか、なんと初めて観たんですよ。BSで放映したのね。画像は最低だけど、コンサート自体はすごくよくて感動してしまった。

葉月
⇒私は先日ビデオで観る機会があったんですが、リアルタイムで観ていたら、もしくは彼のファンであったなら、特別な感情もわいてきたんでしょうが、残念ながら演奏の不手際みたいなとこばっか目に付いてしまってね〜。観客の女の子たちは「ベルベット・ゴールドマイン」に描かれていたファンよりずっとヨカッタなぁ。

リカさん
⇒ボウイに過剰な思い込みがないぶん、「ベルベット・ゴールドマイン」に対しても、全盛時のライブにしても冷静な見方ができるのだなぁと葉月さんの発言を素直に聞けてしまうよ。そうそう。昔のボウイファンの女の子ってけっこうイイんですよぉ。(なに主張してるんだか〜)映画のほうだと、なんかとってつけたようなファッションばかり目立って、たんにエグいだけのような。

いちげさん
⇒映画「デヴィッド・ボウイ〜ジギー・スターダスト」の中の、若く美しいボウイの姿は「ベルベット・ゴールドマイン」の中のブライアン・スレイドよりも数倍あざとく数十倍偽りに満ちていたのかもしれないけれど、それでも彼のひきつった声や傲慢にさえ見える表情の中に、私はとても美しいもの(外見の美しさ以上に)を見い出していたんだと思います。それは私の幻影であり願望に過ぎなかったかもしれない。スターというのはいわば虚構の存在であり、つまるところはボウイもジギーもブライアン・スレイドも、あの円盤と一緒に宇宙へ還ってしまったとしても同じことなのかもしれません。限りないファンタジーで終わるのが良かったのかもしれない。だけど現実にはブライアン・スレイドもデヴィッド・ボウイも宇宙には帰らなかった。それをアーサーという一人のファンの目を通して描いたことに意味があったのかもしれませんねえ。それに、幻影であり虚構であったボウイという存在が一時期、私自身にとってかけがえのない存在であったことはまぎれもない事実でして、この映画を見ながらしばらく忘れていた「かけがえのない存在」という思いに囚われたのでした。

リカさん
⇒この頃のボウイは、私にとってもまさに「かけがえのない存在」でした。

葉月
⇒「ベルベット・ゴールドマイン」によって、かつての「かけがえのない存在」の記憶が呼び起こされたって感じでしょうか?私のようにグラムを聴いてこなかったものや、若い世代の観客たちにとっては、単純に過去のムーブメントを描いた作品と捉えてしまいますが、それ以外の視点で、この映画を観ることのできたお二人を私はうらやましく思いますよ。それが夢の残骸であったとしてもね。

 
by  いちげ & ウチノリカ & 葉月
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トッド・ヘインズ

(トッド・ヘインズ)映画監督
スーパースター/カレン・カーペンター物語(1987)未発表作品
ベルベット・ゴールドマイン (1998) 監督+脚本
SAFE (1995) 監督+脚本
ポイズン (1991) 監督+脚本



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(ユアン・マクレガー)俳優

生年:1971年3月31日
出身地:イギリス/スコットランド

カラーに口紅@〜B <TV>(1992) 出演
赤と黒 <TV>(1993) 出演
ヴァンゲリア <TV>(1994〜1996) 出演
シャロウ・グレイブ (1995) 出演
ブルー・ジュース (1995) 出演
ブラス! (1996) 出演
ピーター・グリーナウェイの枕草子 (1996) 出演
Emma エマ (1996) 出演
トレインスポッティング (1996) 出演
悪魔のくちづけ (1997) 出演
ナイトウォッチ (1997) 出演
普通じゃない (1997) 出演
マネートレーダー/銀行崩壊 (1998) 出演
リトル・ヴォイス (1998) 出演
ベルベット・ゴールドマイン (1998) 出演
チューブ・テイルズ (1999) 監督
氷の接吻 (1999) 出演
スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス (1999) 出演



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ジョナサン・リース・マイヤーズ

(ジョナサン・リース・マイヤーズ)俳優

生年:1977年7月27日
出身地:アイルランド

キラークィーン舌を巻く女 (1996) 出演
マイケル・コリンズ (1996) 出演
ザ・メイカー (1997) 出演
17 セブンティーン (1997) 出演
セクシュアル・イノセンス (1998) 出演
ベルベット・ゴールドマイン (1998) 出演
タイタス (1999) 出演



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デヴィッド・ボウイ

(デヴィッド・ボウイ)ミュージシャン・俳優

生年:1947年1月8日
出身地:イギリス/ロンドン

ジギー・スターダスト (1973) 音楽+出演
ジェームズ・ディーンのすべて/青春よ永遠に (1975) 音楽
地球に落ちて来た男 (1976) 出演
ジャスト・ア・ジゴロ (1978) 出演
クリスチーネ・F (1981) 音楽+ライブ出演
ハンガー (1983) 出演
チーチ&チョン/イエローパイレーツ <未>(1983) カメオ出演
戦場のメリークリスマス (1983) 出演
眠れぬ夜のために (1984) 出演
1984 (1984) 音楽
ラビリンス/魔王の迷宮 (1986) 出演
汚れた血 (1986) 音楽
メイキング・オブ・ラビリンス <未>(1986) 出演
ビギナーズ (1986) 出演
風が吹くとき (1986) 音楽
最後の誘惑 (1988) 出演
ローリング・ストーン ロック20年史 <未>(1989) 出演
パロディ放送局 UHF <未>(1989) 出演
ポンヌフの恋人 (1991) 音楽
ニューヨーク恋泥棒 (1991) 出演
ツイン・ピークス/ローラ・パーマー最期の7日間 (1992) 出演
バスキア (1996) 出演
エヴリバディ・ラブズ・サンシャイン (1998) 出演

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