ANTHOLOGY VAMP

血と薔薇のエクスタシー 血と薔薇のエクスタシー

《吸血鬼小説傑作集》


出版元 幻想文学出版局
(現アトリエOCTA)
解説 東雅夫
装丁 建石修志
価格 1600円
発行 1990年初版
日本作家による吸血鬼をテーマにした短編アンソロジー。「幻想文学」らしいセレクトと、定番作品が混在していて、吸血鬼小説ビギナーにも入りやすい1冊。
個人的BESTは、異国情緒と物悲しい雰囲気が秀逸、三島由紀夫の
「仲間」、「とらんぷ譚」のジョーカーに擬せられた幻想百科事典的な中井英夫の「影の狩人」、吸血鬼定番エッセイ集「吸血鬼幻想」でおなじみの種村季弘の「吸血鬼入門」である。


作品名 作家名 出典 ひとこと おすすめ
仲間 三島由紀夫 「三島由紀夫短篇全集下巻」
新潮社
「吸血鬼」という言葉が一度も出てこない不思議な味わいの吸血鬼譚。ロンドンの街、馬車、外套、巻煙草…「もうあの人も眠ることはない」 ★★★★★
ヴァンピールの会 倉橋由美子 「倉橋由美子の怪奇掌編」
新潮文庫
吸血鬼たちの社交的な部分が洗練された文章で楽しめる。ユーミンの歌詞のエピソードや吸血鬼伝承が巧妙に混在している。
影の狩人 中井英夫 「中井英夫作品集III変身」
三一書房
連作「とらんぷ譚」の中の美しい一組。「彼」の儀式、その言葉の群れを眺めているだけで血を吸われたような快感におちいることができる。 ★★★★
森の彼方の地 須永朝彦 「就眠儀式」
西澤書店
ジュネの言葉にはじまり、トランシルヴァニアへの憧憬を感じさせる吸血鬼オマージュ作品。作者の吸血鬼、同性愛、ファンタジーへの思い入れの強さがうかがわれる。
蝙蝠「ドラキュラ三話」より 岡部道男 「黒の手帖」
1971年8月号
60〜70年代にポップアートや実験映像の分野で活躍した作者らしい独特の詩的世界。ちなみに第一話は「ドラキュラ少年」、第二話は「夕日とドラキュラ」であるがどちらも残念ながら未読。 ★★★
吸血鬼の静かな眠り 赤川次郎 「怪奇博物館」
双葉文庫
日常の中の吸血鬼譚。軽妙な会話の中でストーリーが進む。
週に一度のお食事を 新井素子 「グリーン・レクイエム」
講談社文庫
個人的には森脇真末味のマンガ化のほうがキャラクターに魅力があると感じる。
メイク・アップ・ストーリー 菊地秀行 「古えホテル」
大陸書房
吸血鬼ファンを自認する作者の映像的な小道具、仕掛けが効いている佳作。 ★★
吸血鬼 中河與一 「中河與一全集 第2巻」
角川書店
エログロナンセンスの時代に書かれた少し近親相姦のかおりがする不思議な物語。 ★★
女優 日影丈吉 「幻想器械」
牧神社
年をとっても衰えない女には魔がついている…という伝説が瀬戸内海地方にあるらしい。美と若さへの執着心が吸血鬼に姿を変えて。 ★★
抑制心 星新一 「ちぐはぐな部品」
角川文庫
リチャード・マシスン「地球最後の男」の設定が裏返しで語られる。ショート・ショートならではの軽やかさと鋭さの中に恐怖がいりまじる。 ★★
黄色い吸血鬼 戸川昌子 「緋の堕胎」
双葉文庫
耽美やエロティシズムとはかけ離れているが、これが現実的にも起こりうるのではないか…と思い始めると怖い。
ちのみごぞうし 岸田理生 私の吸血學」
白水社
寺山修司に師事した作者はマザーグースの翻訳と共に、吸血鬼の研究家としても知られている。吸血鬼雑学小説のような感じで楽しめる。 ★★
一本足の女 岡本綺堂 「影を踏まれた女」
光文社時代小説文庫
西欧的な吸血鬼ではなく、東洋の闇の雰囲気がよく出ている。得体のしれない嗜血症の女の不気味さ。 ★★★
夜あけの吸血鬼 都筑道夫 「深夜倶楽部」
双葉社
巧妙な仕掛けが施された怖い吸血鬼小説。本編が収録されている「深夜倶楽部」は「百物語」の形式を踏まえた連作怪談集。 ★★★
吸血鬼入門 種村季弘 「書物漫遊記」
ちくま文庫
作者の河出文庫から出ている「吸血鬼幻想」はホンの少しでも吸血鬼に興味をお持ちの方ならお持ちであろう。この作品は、自作の解説文がそのまま吸血鬼譚のパロディとなっていて、このアンソロジーのラストをしめくくるのにふさわしいといえる。 ★★★★


参考(その他の吸血鬼アンソロジー本)

書名 編者 発行年 出版元 ひとこと
怪奇幻想の文学1
真紅の法悦
平井呈一
中島河太郎
紀田順一郎
1969 新人物往来社 解説は種村季弘、解題は荒俣宏。テーマ別に4巻出ている。吸血鬼の1、黒魔術の2「暗黒の祭祀」、ゴシックの3「戦慄の創造」、近代恐怖派の4「恐怖の探求」。
ドラキュラ・ドラキュラ 種村季弘 1973 薔薇十字社 オーギュスタン・ドン・カルメ、ヴォルテール、日夏耿之介のエッセイとダレルの短篇「謝肉祭」を省いて、1980年に大和書房から再版。大和版は1986年に河出文庫から出ている。
怪奇と幻想1(吸血鬼と魔女) 矢野浩三郎 1975 角川書店 序文はダシール・ハメット。このシリーズは全3巻。2は「超自然と怪物」、3は「残酷なファンタジー」。
ドラキュラのライヴァルたち マイケル・パリー 1980 ハヤカワ文庫 ドラキュラタイプの吸血鬼小説のアンソロジー。
モンスター伝説 仁賀克雄 1984 ソノラマ文庫 ドラキュラ、狼男、フランケンシュタインにちなんだ1950年代モダン・ホラーの作家たちの短篇を収録。
妖魔の宴「ドラキュラ編」1、2 レオナード・ウルフ
菊地秀行
1992 竹書房文庫 スクリーンに映し出されたドラキュラをテーマとする英米のSF・ホラー作家のアンソロジー。妖魔の宴シリーズは他に「狼男編」(ハーラン・エリスン、菊池秀行)、「フランケンシュタイン編」(バイロン・プライス、菊池秀行)がある。
血も心も エレン・ダトロウ 1993 新潮文庫 精神的な吸血鬼を扱った新吸血鬼小説アンソロジー。原題は「Blood Is Not Enough」
死の姉妹 マーティン・Hグリーンバーグ&バーバラ・ハムリー 1996 扶桑社 女吸血鬼を扱った英米作家によるアンソロジー。原題は「Sisters Of The Night」
吸血鬼伝説 仁賀克雄 1997 原書房 1950年代までの米ホラー作家による吸血鬼小説アンソロジー。
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