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Vol.9 悪魔を憐れむ歌 2001.2.

1968年にリリースされた「Beggars Banquet」からの名曲、「Sympathy ForThe Devil(悪魔を憐れむ歌)」は、映画にもっとも多く使われた曲かもしれない。

邦題がそのもの
「悪魔を憐れむ歌」(1997年グレゴリー・ホブリット監督)は、原題が「Fallen」(堕天使くらいの意味であろうか)だが、ラストに「Sympathy For The Devil(悪魔を憐れむ歌)」が流れるし、死刑囚に宿っていた悪霊が、のりうつった人間たちに次々と初期のヒット曲「Time Is On MySide」を歌いつながせるという物語なので、ストーンズの邦題をそのままタイトルにしたのも妥当だろう。私はこの邦題とデンゼル・ワシントンの名につられて観たのだが、スリラーといえるほど怖くもないし、ラストもよくあるパターンだったので少し物足りなく、タイトルに負けてしまっているような感じを受けた。何千年も生きている悪霊が、60年代の、それもオリジナルでなくストーンズ・バージョンの「Time Is On My Side」を気に入って口ずさむという設定が何とも微笑ましくはあったのだが。

ストーカーの狂気を描いた
「ザ・ファン」(1996年トニー・スコット監督)では冒頭に「Sympathy For The Devil(悪魔を憐れむ歌)」が流れる。大リーグの熱狂的ファンが狂気に走る前ぶれとして、この上もなくふさわしいではないか。主演のロバート・デ・ニーロは、「キング・オブ・コメディ」と「ケープ・フィアー」を合わせたような役柄を、あいかわらずの凄まじさで演じている。ストーカーされる大リーガーの人気者にはウェズリー・スナイプス。ラスト、警察に取り囲まれて「何が望みなんだ!」と聞かれ、何も答えられなかった男に私は憐れみ(Sympathy)さえおぼえた。ちなみに、デ・ニーロがクルマの中で「Start Me Up」を大声で歌うシーンもある。

ガンズ・アンド・ローゼズ・バージョンの「Sympathy For The Devil(悪魔を憐れむ歌)」がラストに流れるのは、アン・ライス「夜明けのヴァンパイア」を原作とした
「インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア」(1994年ニール・ジョーダン監督)だ。トム・クルーズ、ブラッド・ピット、アントニオ・バンデラス、クリスチャン・スレーターといった人気スターを揃えていたにもかかわらず、個人的にはあまり入り込めなかった。トム・クルーズやブラッド・ピットのハリウッド・テイストなイメージが強すぎたのか、ジョーダンに「狼の血族」のゴシックな雰囲気を期待しすぎたからか…しかし、どこかライトな感じの吸血鬼映画には、オリジナル・バージョンよりもカバー・バージョンのほうがしっくりくるのかもしれない。

「Sympathy For The Devil(悪魔を憐れむ歌)」がスクリーンに流れるのではなく、曲が構築されていくプロセスがスクリーンに映し出されたドキュメンタリー映画がある。ヌーベルヴァーグの旗手ジャン・リュック・ゴダール監督の
「ワン・プラス・ワン」(1968年)がそれだ。ゴダールによれば、「何かが構築されていくプロセスを映したかった」ということで、ストーンズのレコーディング風景が大部分をしめているにもかかわらず、ストーンズおよび「Sympathy For The Devil(悪魔を憐れむ歌)」は、あくまでも「素材」である。

スタジオでのレコーディング風景と並行して、自動車の廃棄場で、プラック・パワーのアジテイターがリロイ・ジョーンズの「ブルースの魂」を、モッズ族がヒトラーの「わが闘争」を朗読し、森の中でインタビューに答える女性の映像がバラバラにはさみこまれる。革命を示唆するような観念的な映像である。音楽を期待してみるとアテがはずれるだろうが、アナログなレコーディング風景のプリミティヴな迫力、スタジオ内のメンバーたちの存在感、ミック・ジャガーの妖しい美しさ、そして1969年に他界したブライアン・ジョーンズの姿を見ることができるのは貴重だ。(ブライアンのうつろな瞳は死の予感にみちている)

ストーンズファンでなくても、各シーンの構図、カメラワークのすばらしさは時代を感じさせないので一見の価値はある。アメリカでは「悪魔を憐れむ歌」と改題されて公開された。

作りものではない「Sympathy For The Devil(悪魔を憐れむ歌)」が映し出されたのは、
「ギミー・シェルター」(1970年ディヴィッド・メイズルス、アルバート・メイズルス、シャーロット・ツワーリン監督)においてである。コンサートの中で発生した事件が偶然にもフィルムにおさめられてしまったのだ。そう、結果的に4人の死者と多くの負傷者を出した「オルタモントの悲劇」である。

コンサートの様子と並行して、会場や警備の打ち合わせ、そしてツアーを終えたストーンズのメンバーが編集中のフィルムを見ながら語るシーンが同時に挿入されたユニークな構成で、普通のコンサート映画の枠を越えている。度重なる会場の変更、会場の警備を暴走族ヘルス・エンジェルスにまかせたりと、異様な雰囲気の中でコンサートが始まったが…事件の詳細はあまりにも有名なのでここではふれない。

「Sympathy For The Devil(悪魔を憐れむ歌)」の演奏が中断されたときにミックが言う。「この曲を歌うといつも何かが起こる…!」と。そして予言は的中するのだ。これほどまでに生々しい「SympathyFor The Devil(悪魔を憐れむ歌)」は先にも後にも存在しないだろう。タイトル曲
「Gimmie Shelter」は私の大好きな作品であるが、スクリーンからきこえてくる「どこかに隠れなければ消されてしまう」というフレーズは震えがくるほど怖く、そして悲しい。この映画は、ストーンズのドキュメンタリーというより、1970年という時代の暗い影を映し出した名作であるといえよう。


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