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Vol.8 ISN'T STEVIE LOVELY? 2001.1.

前回とりあげたエリック・クラプトンのニュー・アルバムがもうすぐリリースされる。その第1弾シングルは、スティービー・ワンダーが黒人指導者マーティン・ルーサー・キング牧師に捧げたアルバム「Hotter Than July」からの名曲「I Ain't Gonna Stand For It(疑惑)」のカバーである。以前クラプトンがスティービーの初期ヒット曲「I Was Made To Love Her(愛するあの娘に)」が大好きだと語っていたことがある。「愛するあの娘に」「疑惑」ともに、私のお気に入りの曲なので、「クラプトンとは好みが合うな〜」と喜んでいるのだが、「疑惑」のクラプトン・ヴァージョンは今ひとつ好きになれない。

スティービーをカバーするミュージシャンは多い。数の上ではビートルズのカバー曲より少ないだろうが、質の高さからいうと勝っているかもしれない。チャカ・カーンの「I Was Made To Love Her(愛するあの娘に)」、ザ・ガッド・ギャングの「Signed, Sealed & Delivered I'm Yours(涙をとどけて)」、ジョデシーの「Lately」、フージーズの「Master Blaster(Jammin')」、メアリーJ・ブライジの「As」「Overjoyed」など、どちらかというと黒っぽい雰囲気のカバーがスティービーの楽曲の良さをよりいかしているように思う。

そんな中で、スクリーンに映し出された風景によく似合っているな…と感じたスティービーのカバー曲がある。ウェズリー・スナイプス、アイス・T主演、マリオ・ヴァン・ピーブルス監督がアメリカの黒人社会を抉った
「ニュー・ジャック・シティ」(1991)に流れた「Living For The City(汚れた街)」のリミックス・ヴァージョンである。オージェイズの「For The Love Of Money」のやはりカバー曲とメドレーになっているのだが、女性ラッパー、クィーン・ラティファをフューチャーしたリヴァート、トゥループのコンビネーションがすばらしい。

この「Living For The City(汚れた街)」は、スパイク・リー監督の
「ジャングル・フィーバー」(1991)にも効果的に流れている。こちらも主演はウェズリー・スナイプスで、人種問題、ドラッグ問題を扱っており、サウンドトラックはスティービー本人が担当している。「ジャングル・フィーバー」のサントラについては、あたたかみのあるスティービーらしい曲が揃っているのにもかかわらず、全体的に印象が薄いと感じるのは気のせいだろうか。「ジャングル・フィーバー」サントラ盤の11曲を全部あわせても、「Living For The City(汚れた街)」1曲のほうが私には重く残るのである。つまるところ、カバーされようがサンプリングされようが、原曲のすばらしさは変わることがない。都会のゲットーで暮らす厳しさが表現された後世に残るであろう名曲だ。

さて、カバー曲の話題から始めてしまったが、スティービーが音楽を担当した映画も数多い。
「ウーマン・イン・レッド」(1984)からの「I Just Called To Say I Love You(心の愛)」はアカデミー主題歌賞を受け、日本ではCMなどでも流され大ヒット。70年代の内省的な作品に比べると、あまりにも単調で物足りないと思っていた曲だが、来日コンサートのおり、スティービーがステージの縁に腰かけて目の前で首をふって歌ってくれたときには、「心の愛」なんてとってつけたような邦題がストレートに胸に響いた。

トム・ハンクスとメグ・ライアンの
「ユー・ガット・メール」(1998)にもスティービーの初期ヒット曲「Signed, Sealed & Delivered I'm Yours(涙をとどけて)」が流れる。30年近くも昔の曲が、Eメールという現代のコミュニケーション手段と妙に似合っていたのは、恋愛のエモーショナルな部分が今も昔も同じだからであろうか。

名盤「Songs In The Key Of Life」の後にリリースされた
「Journey Through The Secret Life Of Plants」は、植物の生態を描いたドキュメンタリー映画(1979)のサントラ盤で、商業的にはヒットしなかったがインストゥルメンタルを中心とした名曲が揃っている。特に、2年前に発売された「バラード・コレクション」にも収録された「Send One Your Love(愛を贈れば)」は人気の高い曲だ。(そういえば日本でも、このアルバムから「Ai No Sono(愛の園)」を西城秀樹がカバーしていた)

ディズニーが実写とCGを駆使したといわれる
「ピノキオ」(1996)のために書きおろされた「Kiss Lonely Good-Bye」も心に残る美しい曲だ。「Journey Through The Secret Life Of Plants」は一般公開されなかったので未見であるし、「ピノキオ」もまだ観ていないので、スクリーンをイメージすることができないのが残念だ。
しかし、スティービーの音楽、彼の声からは自然のやさしさ、大地のあたたかみ、命の尊さが押しつけがましくなく伝わってくるので、植物は彼の音楽によってすこやかに成長し、木の人形は彼の歌声によって生命をふきこまれるにちがいない…映画を観ていなくても、こんなふうに感じてしまう魅力が彼の音楽にはある。

最後に、スティービーとは一見そぐわないような青春映画についてふれておこう。青春映画というのは青くさくてノスタルジックで、どちらかというと私は苦手なのだが、青春映画に流れる「音楽」というのにどうも弱いみたいだ。スティービーの名曲
「Stay Gold」がテーマになっているフランシス・フォード・コッポラ監督の「アウトサイダー」(1983)は、多くのYA(ヤング・アダルト・スターの略語…既に死語だが)を輩出したことでも有名である。マット・ディロン、トム・クルーズ、Cトーマス・ハウエル、ラルフ・マッチオ、ダイアン・レイン、ロブ・ロウ、エミリオ・エステヴェス、パトリック・スウェイジ…当時の人気シンガー、レイフ・ギャレットなどなど。こうやって並べてみると相当な顔ぶれだ。

ストーリーは単純で、貧しいイースト・サイドに住む若者たちと、裕福なウェスト・サイドに住む若者たちのぶつかり合いが描かれている。しかし、ただの青春映画で終わらないところがさすがにコッポラだ。登場人物一人一人の心のキメを細かに追い、見事なカメラワークで若さゆえの痛みと輝きをスクリーンにおさめてゆく。そして最後に流れる「Stay Gold」(コッポラの父で音楽家であるカーマイン・コッポラとの共作)が映画のテーマに重なり、胸がいっぱいになり、こらえていた涙があふれる。今でもイントロのハーモニカが聴こえてくると、「アウトサイダー」の夕景が浮かび上がり、映画を観た当時の背景までもがよみがえってきたりする。

「スティービー・ワンダーは70年代だ」と言う声がよく聞かれる。確かに、コンセプト・アルバムとしての魅力を語るならば、「Music Of My Mind」から「Hotter Than July」までを私も挙げてしまうのだが、ごく初期の「Castle In The Sand」にも、大好きな「I Was Made To Love Her(愛するあの娘に)」にも、70年代の名曲の数々にも、80、90年代の映画挿入曲にも、ユーリズミックスなどのアルバムにゲスト参加したハーモニカ演奏にも、日本の缶コーヒーのCM曲にも、スティービーが愛に向かい合うスピリチュアルな姿勢が共通して在ると思う。
「Stay Gold」は、いつまでも輝きを失わないスティービーの音楽そのものだといえるだろう。


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