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Vol.7 まぼろしのブラインド・フェイス 2000.12.

90年代以降、日本では洋楽人気が今ひとつのようであるが、エリック・クラプトンがアルバムを出せば、とりあえずは上位にチャート・インする。もちろん、その人気は日本にかぎってではないが、40年近い音楽活動の中で、停滞時期はあったものの、コンスタントに売れ続けているのはスゴイことだと思う。

そんなクラプトンの魅力って何だろう。「ギターの神様」という呼び名の通り、ギタリストとしての類まれなる才能をあげる人もいるだろうし、「Layla」「Tears In Heaven」をはじめとする名曲の魅力をあげる人もいるだろう。また、ロバート・ジョンソンやBBキングらブルースの先達への敬愛と黒人ブルースの魅力を世間に知らしめた功績をあげる人もいるだろう。しかし意外に知られていないのが映画との関係だ。

クラプトンが音楽を手がけた映画、彼の曲が挿入された映画はかなり多い。グラミーを受賞した
「Change The World」はジョン・トラヴォルタ主演の「フェノミナン」の主題歌であるし、愛息を失った悲しみを表現した「Tears In Heaven」は日本未公開の「RUSH」で流れている。トム・クルーズの「ハスラー2」、人気シリーズ「リーサル・ウェポン」、ミッキー・ローク主演の「ホーム・ボーイ」、ゲイリー・オールドマンが監督にのりだした「ニル・バイ・マウス」、スティーヴン・フリアーズ監督の「殺し屋たちの挽歌」、新しいところではブルース・ウィリス、ミシェル・ファイファー主演の「ストーリー・オブ・ラブ」、ジュリア・ロバーツ主演の「プリティ・ブライド」にもクラプトンの音楽が流れている。

また、彼が出演した
「バングラデッシュのコンサート」「ジョン・レノン/スィート・トロント」などの名ライヴ映画では彼の素晴らしいギターが聴けるし、「Tommy」「ブルース・ブラザーズ2000」といったミュージカル映画では、そのギターと共に独特の存在感をみせてくれている。

そんな中で、クラプトンの音楽が実に効果的に使われている映画がある。興行的にはヒットしなかったし、主役を演じたのが個人的に苦手なケヴィン・コスナーなのだが、とにかく音楽がよかった。作品そのものは、自由への訣別というありがちなテーマの青春モノであるが、選曲のセンスによって70年代という雰囲気がとても巧く表現されていた。70年代に青春をおくった、あるいは70年代音楽ファンは、とりあえず観てほしい。

その映画とは、スティーヴン・スピルバーグが主宰するアンブリン・エンターテイメント作品、ケヴィン・レイノルズ監督の第1作であり、ケヴィン・コスナーの初主演作品でもある
「ファンダンゴ」(1985)だ。
映画の舞台は、ベトナム戦争さなかの1971年アメリカ。大学の卒業式を終えたばかりの寮仲間5人組は、管理社会と徴兵という避けられない現実を前に、最後のバカ騒ぎ(ファンダンゴ)の旅に出たのだが…。

お目当ての映画と併映されていたこの作品を、私は何の期待もせずに観たのだが、冒頭にクリームが流れてきて途端に胸が熱くなった。ジョージ・ハリソンと共作の
「Badge」は、私の大好きな曲である。今でもコンサートで演奏されているので、クラプトンにとっても大切な曲なのかもしれない。

主題歌にすえられたのは、エルトン・ジョンの「Saturday Night's AlrightFor Fighting(土曜の夜は僕の生きがい)」で、この1973年の大ヒット曲は、1986年に「土曜の夜はファンダンゴ」というタイトルで、この映画のサントラとしてシングル発売されている。それから、キャロル・キングの名曲、「It's Too Late(心の炎も消え)」、映画「イージー・ライダー」のイメージが強いステッペン・ウルフの「Born To Be Wild(ワイルドで行こう)」が立て続けに流れる。またキース・ジャレットの「Spheres(7thMovement)」やパット・メセニー・グループの「Farmer's Trust」などロックの枠を越えた幅広いジャンルから70年代ヒット曲が選ばれているのも嬉しい。

そして5人のバカ騒ぎ(ファンダンゴ)は、ブラインド・フェイスの
「Can't Find My Way Home」で幕を閉じる。これも私の大好きな曲である。クリーム解散後に、クラプトンがスティーヴ・ウィンウッドらと結成したこのバンドは、アルバムを1枚残しただけで解散したが、「Can't Find My Way Home」という名曲が収録された「BLIND FAITH」は名盤として今も語りつがれている。

70年代を日本ではシラケ世代と呼んでいたが、アメリカはどうだったのだろうか。社会や大人世界への反抗精神が目立った60年代と、まわりに迎合することで自らを守ろうとした80年代に挟まれた70年代。この映画に登場する5人のように、自由の終焉への危機感と管理社会に組み込まれる閉塞感を抱きながら、シラケるかわりに、最後のバカ騒ぎで自らの解放を試みようとした若者が当時のアメリカにも多くいたにちがいない。

90分という短い時間の中に、クラプトンをはじめとする70年代音楽をよみがえらせてくれた「ファンダンゴ」。時代を音楽で巧く表現した映画といえば、他にもアカデミーを受賞したトム・ハンクス主演の「フォレスト・ガンプ」などがあるし、映画そのもの、また役者の魅力という点では、断然こちらを支持するのだが…若き日のクラプトンへの思い入れ、そして自分自身の70年代を重ね合わせると、私にとっては「ファンダンゴ」のほうがより身近な存在だといえる。

今なお衰えないクラプトンのギターは、ここ最近もますます円熟味をまして素晴らしいが、不安定な時代を象徴するかのような「Badge」「Can't Find MyWay Home」の音には、独特の緊張感と悲壮感が漂っていて、その音は誰にも、いや、今のクラプトンにさえ二度と出せない永遠の音なのかもしれない。


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