Vol.3 JBに説教されたい 2000.8.
「一番好きなミュージカル映画は?」と聞かれたら、「トミー」(1975年ケン・ラッセル監督)と答えていたが、それは「ブルース・ブラザーズ」(1980年)に出会うまでの話。ジョン・ランディス監督のコメディ・センス、ジョン・ベルーシとダン・エイクロイドの個性的なキャラクターもいいが、この映画の最大の魅力は何といっても「音楽」。ソウル・ミュージックファンで観ていない人はまずいないだろうけど、すべての音楽ファンにもぜひ観てほしい映画だ。とにかく、ゲストミュージシャンの豪華なこと!彼らの歌が聴けるのも嬉しいが、それぞれが役者としても十二分に魅力を発揮している。
トリプル・ロック教会で魂の救済を説くのはソウルの帝王、ジェームス・ブラウン。彼のゴスペル・ソングで歌い踊るバックにチャカ・カーンがまじっていたりするのも嬉しいかぎり。こんな説教なら毎日でも教会に通いたいものだ。
下町のソウル・フード店のおかみさんを演じるのは、ソウルの女王、アレサ・フランクリン。夫を尻にひいている様子はとってもリアルで、彼女に「Think!」なんて歌われたら、たいていの男性はおとなしくなってしまうだろう。
その気弱な夫を演じるギターのマット・マーフィー、臆病な下働きのサックス奏者ルー・マリーニ。共にとてもいい味を出している。
さて、メンバーが揃ったら次は楽器だが、楽器店の店主は、なんとレイ・チャールズだ。ギターを盗みに入った少年にピストルをかまえる様子は目が不自由なんて信じられないくらい。豹変して「子供が非行に走るのを目の当たりにするのは悲しいことだ」と嘆いたり、公演のポスターを逆さまに貼る細かい演技で、個性を出している。
レイの歌声にのって、町の人たちが入り乱れて踊るシーンはミュージカルの名シーンの一つに数えられるだろう。
ブルース・ブラザーズに音楽の手ほどきをした、孤児院の下働きを演じるキャブ・キャロウェイもユニークな役回りで、彼らの公演の穴埋めに往年のヒット曲「Minnie the Moocher」を披露したりして大活躍。彼の部屋に貼ってあるマディー・ウォーターズのピンナップにはブルースファンもほくそえむことだろう。
音楽以外のゲストもユニークで、ベルーシにだまされる謎の女をレイア姫ことキャリー・フィッシャーが怪演しているし、エイクロイドがナンパしようとするのは往年のミニ・スカートの女王ツィギーだ。そして、税務署員にはなんとスティーヴン・スピルバーグ監督が扮している。これからご覧になられる方は気をつけて観ていただきたい。
そうそう、忘れてならないのは、ソウル・フード店がある下町でストリート・ミュージシャンを演じた(?)ジョン・リー・フッカー。TVで放映されるときはいつもこの部分がカットされてしまうので悔しいけれども、私の大好きなシーンだ。ちなみに、ブルース・ブラザーズの黒づくめファッションは、50年代にジョン・リー・フッカーが、黒人に対して何かとうるさかった警察の目を逃れるためにビジネス・スーツと帽子を着用していたのだが、そのアイデアを拝借したらしい。
さて、この映画の主役であるバンドは、「サタディー・ナイト・ライヴ」(1977年からオンエアされたアメリカの人気番組)の中でシャレのように結成された。しかしオーティス・レディングらと仕事をしていた元ブッカー・T &The MG'Sのスティーヴ・クロッパー(名曲「The dock of the bay」をオーティスと共作したのでも有名)、ドナルド・(ダック)・ダンはじめ、ソウルフルなミュージシャンたちがバックをかためていて、ベルーシの巧くはないが少ししゃがれた声と、エイクロイドのソウル好きな情熱が伝わってきて妙な味わいのバンドになっている。先に挙げたギターのマット・マーフィーの演技もよかったが、高級レストランのマネージャー役、トランペット奏者のアラン・ルービンの演技は秀逸で、ミュージシャンにしておくのはモッタイない(?)くらい。
ジョン・ベルーシなき後は、ブルース・ブラザーズの二人の代わりにエディ・フロイドをヴォーカルにむかえて、ブルース・ブラザース・バンドとしてのライヴも精力的に行われている。私も5回ほど彼らのライヴを聴きに行ったが、観客をステージに上げての楽しいステージだった(もちろん私もステージで踊りまくった)。
エディ・フロイドは、エリック・クラプトンもカバーしている「Knock on wood」で知られるが、「ブルース・ブラザーズ2000」(1998年ジョン・ランディス監督)では映画の中で彼の歌声が聴ける。ウィルソン・ピケットと電話会社を経営しているという設定は、とにかくピケットに「634-5789」を歌ってほしいという、監督とエイクロイドの苦肉の策かもしれない。
その2000のほうのシナリオは、オリジナルに比べると個人的にはイマイチだったが、ゲスト・ミュージシャンの豪華さは前を上回る。
中古車屋からミュージシャンに転職したB.B.キング(他にも映画経験があるせいか演技が自然で巧い)率いるルイジアナ・ゲイター・ボーイズのメンバーを挙げていくだけでふるえがきてしまう。
エリック・クラプトン(演技は超下手だがギターはいつもながら素晴らしかった)、ボ・ディドリー、スティーヴ・ウィンウッド、アイザック・ヘイズ、ジェフ・バクスター、ビリー・プレストン、Dr.ジョン、ココ・テイラー、クラレンス・クレモンズ、ルー・ロウズ 、ジミー・ボーン 、グローバー・ワシントンJr.ー…(ホントにふるえがとまらなくなってきたので、このへんでやめておく)
また、先にあげた電話会社のウィルソン・ピケットとエディ・フロイドの店の掃除夫は若きブルースギタリストのジョニー・ラングだし、ロシアマフィアに襲われる店にはジュニア・ウェルズの顔もみえる。
前回から引き続き、ジェームス・ブラウンは牧師役で出ているが(エンド・ロールの後に彼のお楽しみタイムがあるのでお見逃しなきよう)、もう一人の説教師を演じるサム・ムーアの声も教会に響きわたって、とても良かった。サム&デイヴの片割れである彼は、相棒亡き後、80年代にルー・リードとのデュエット「Soul Man」のMTVで見かけたきりだったが、あの声は変わらず健在であった。
アレサ・フランクリンのソウル・フード店はベンツの代理店になっていて、彼女自身も服装、体型ともにゴージャスに変身。「Respect」を歌う声もさらに貫禄をまして素晴らしかった。魔女に扮するエリカ・バドゥも良かったけれども、アレサの存在感にはまだまだ及ばない。
ちなみに、オリジナルから18年後に撮られた2000は、ジョン・ベルーシ、ジョン・キャンディ(「クール・ランニング」の記憶も新しい)、そしてキャブ・キャロウェイたち故人に捧げられている。ジョン・ベルーシのキャラクターをカリスマ性とよんでいいのかわからないが、ベルーシのよりもさらに太目のジョン・グッドマン(声がすてき)とブルース・ハープを聴かせる少年(J・エヴァン・ボニファント)、そして歌って踊る警察署長(ジョー・モートン…「ブラザー・フロム・アナザ・プラネット」「ターミネーター2」などの演技に注目していたが歌もなかなかうまい)の3人が集まってもベルーシのキャラクターには太刀打ちできなかったようだ。
もちろん、コメディとしての要素も盛りだくさんで、キャラクターの奇行、破天荒なカーチェイスも見逃せない。そして「音楽」に絡めてのいがみ合いやファン層の違いといった描写が特におもしろい。たとえば、ブルース・ブラザーズの天敵音楽として、C&W(カントリー&ウェスタン)が設定されていたり、ナチス党の車が墜落するときにワーグナーが流れたり…。
文字通り、「音を楽しめる」最高の映画だといえる。