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Vol.10 黒くぬれ! 2001.3.

前回はストーンズの「Sympathy For The Devil(悪魔を憐れむ歌)」を中心に書いたが、ここでは思いつくままにストーンズの音楽が流れる映画を挙げていこうと思う。

まず、ベトナム戦争を題材とした映画が3つ浮かんだ。ジョン・ボイト、ジェーン・フォンダ主演の
「帰郷」(1978年ハル・アシュビー監督)に「Out Of Time」「Jumpin'Jack Flash」「Ruby Tuesday」「Sympathy For The Devil(悪魔を憐れむ歌)」などのストーンズ・ナンバーがこれでもかと流れている。他にも、ビートルズ、サイモン&ガーファンクル、ボブ・ディラン、ジミ・ヘンドリクス、ジェファーソン・エアプレーン、ステッペン・ウルフなどが時代を映し出すのに効果的に流れるのだが、選曲があまりにも平凡だという気もする。しかしアシュビー監督はフォークのウディ・ガスリー伝記映画、ストーンズUSツアー記録映画では高い評価を得ているようだ。

どちらかといえばラストに流れるドアーズのほうが有名だが、
「地獄の黙示録」(1979年フランシス・フォード・コッポラ監督)でもストーンズが使われている。戦線真っ只中、兵士が水上スキーを楽しむといったシーンに「Satisfaction」が使われ、エキセントリックな雰囲気をかもしだしていた。他にもジェファーソン・エアプレーンの「White Rabbit」が流れていたが、この曲は「帰郷」でも流れていたように記憶している。

ベトナム戦争を題材とした映画の中では
「フルメタル・ジャケット」(1987年スタンリー・キューブリック監督)が好きだ。淡々とした映像に前半は油断しすぎた。普通の人間が異常な世界に入り込んだときの恐怖が後半に重くのしかかる。全編を通してカメラはクールである。そのクールな映像をしめくくるのに「Paint It Black(黒くぬれ)」が実に効果的であった。この曲は、アル・パチーノ主演のスリラー「ディアボロス(悪魔の扉)」(テイラー・ハックフォード監督)のラストでも流れたが、「フルメタル・ジャケット」の、現実と向き合うことを避けずにはおれない兵士たちの心象風景を抉り出すような感覚のほうにより似合っていたと思う。

「ワン・プラス・ワン」を撮ったジャン・リュック・ゴダール監督はフランス人であるが、他にヨーロッパ映画人でストーンズを使った監督にイタリア人のミケランジェロ・アントニオーニがいる。アメリカの砂漠を舞台に、学生運動に参加しながら疎外感を持ち続ける主人公の心象風景を描いた
「砂丘」には、名盤「Let It Bleed」から「You Got The Silver」が流れた。しかしこの映画は、どちらかといえばピンク・フロイドの印象が強い。

同じく「Let It Bleed」からの曲で、コンサートの終盤で必ず歌われる
「You Can't Always Get What You Want(無情の世界)」が意外なシーンできかれる映画がある。学生運動の真っ只中に青春時代を送った中年の男女たちの心の機微を描いた「再会の時」(1983年ローレンス・カスダン監督)である。

自殺した友人を弔うために久々に集まった7人の仲間たち。ウィリアム・ハート、ケビン・クライン、グレン・クローズ、ジェフ・ゴールドブラムなど、いずれも主役級の個性派が揃っている。ちなみに自殺した友人というのは写真だけの出演となった無名時代のケヴィン・コスナー。自殺した友人が好きだったということで、「You Can't Always Get What You Want(無情の世界)」が教会に鳴り響く。「プリック・アップ」(スティーヴン・フリアーズ監督)の葬式シーンで、ビートルズの「A Day In The Life」が流れたときと同じくらい印象深いシーンだった。この映画にはロックだけでなく当時のソウル・ナンバーも多く盛り込まれていて、サントラ盤としてもかなり話題になった。

音楽映画の傑作といえば「ラスト・ワルツ」を挙げる人も多いだろうが、この作品を監督したマーティン・スコセッシがその5年前に撮った映画
「ミーン・ストリート」(1973年)にも多くのロック・ナンバーが流れる。ニューヨークのリトル・イタリーを舞台にした情けないギャングのストリート映画で、主演はロバート・デ・ニーロとハーヴェイ・カイテル。エリック・クラプトン、ザ・ロネッツ、ミラクルズ、ザ・マーベレッツのヒット曲と共に、「Tell Me」「Jumpin' Jack Flash」が印象的に流れ、スコセッシのロック・フリークぶりが伺える作品となっている。

ストーンズの曲名がそのまま映画のタイトルになってしまった作品に
「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」(ペニー・マーシャル監督)がある。タイトル曲は、アレサ・フランクリンのカバー・バージョンであるが、プロデュースはキース・リチャーズでMTVビデオクリップにも出演、オリジナルとは違った魅力の曲に仕上がっている。映画のほうは、主演のウーピー・ゴールドバーグがコメディエンヌとしての才能をにじませてはいるが、全体的には平凡で物足りなかった。せめて"ジャンピン・ジャック・フラッシュ"のコードネームを持つ男にミック・ジャガーを起用するくらいの遊び心がほしかった。(最後まで期待して観ていたのに)

80年代以降のストーンズ・ナンバーが使われている映画はほとんど思いつかないが、アンディ・ウォーホールに見出され夭折した天才画家の物語
「バスキア」(ジュリアン・シュナーベル監督)に、「Waiting On A Friend(友を待つ)」が流れる。しかし、ウォーホールを演じたデヴィッド・ボウイーの存在感が強烈で(雰囲気がそっくり)音楽の印象はあまり残っていない。

思いつくままにストーンズが流れる映画を挙げてきたが、作品そのものを掘り下げることができず、曲名を並べるだけで終わってしまったのが残念だ。どちらかといえば、戦争ものやスリラーなどダークなイメージの映画に使われているような印象もあるが、これだけ多くストーンズの音楽がスクリーンに登場するのは、カウンターカルチャーの象徴を超えた魅力、時代を超えたカリスマ性が彼らの音楽に存在するからにちがいない。


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