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砂かけ婆


砂かけ婆

 奈良県や兵庫県に出没する妖怪のようで、神社の近くにあるさびしい森陰などにひそんでいて、通る人に砂をばらばらと振りかけておびやかす。姿を見たものはいないという。どうやら、近畿地方に集中しているようで、京都市在住の一読者はわざわざ手紙で報告してくれた。
 それによると、彼女はお宮参りをした帰りに、藪の中から砂をあびせられたというのである。そして勇敢にも、竹の棒を持って藪の中に躍りこんで、「砂をかけたのは、どこのどいつやぁ」といった。あたりはシーンとして人の気配はなく、返事をするものもなかった。ふと足もとを見ると、直径1メートルぐらいの石が横たわっているばかりである。
 「まさか石が砂を投げるわけもなく、こんなにもゾーッとしたことははじめてです」とは彼女の談であるが、これは砂かけ婆にまちがいない.
 妖怪が出現しにくくなった昨今では、これはまったく貴重な体験であろう。

解説 水木しげる