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一反木綿


一反木綿

 一反ほどの白い布が、とくに夜間ヒラヒラと飛来する。昔、鹿児島県の大隈地方に現れたという妖怪である。見た目はまったく恐ろしくなく、それどころかぼんやりした人などは、洗濯物が風にあおられて飛んでいるくらいにしか思わない。ところが、これが人を襲うというのだから妖怪も見かけによらない。
 ある夜、ひとりの男が家路を急いでいた。すると、空からスーッと白い布が男の前に落ちてきた。驚いて足を止めると、その白い布は今度は男の首に巻きついてきた。そのとき、男はすばやく脇差しを抜き、白い布を切った。すると、白い布は消えたが、男の手には血しぷきがついていたという。
 一反木綿はこうして人の首に巻きついたり、または顔面そ覆ったりして、息の根を止めてしまうのである。
 子供のときなど、タ方、よくそれらしいものが空を飛んでいたような記憶がある。ふつう、いわれているように、首をしめるなどという感じではなかった。なんとなく人なつこい感じだった。

解説 水木しげる